“松原祐美が白銀の姫になった”
そんな噂が学校中を騒がせた。
噂話をしてくる友達がいない私ですら、この話が耳に入ってきた。
けど、祐美に興味がない私にとってはどうでもいい話だ。
目の前には職員室のドア。
我ながらやってしまったと思う。
昨日、高嶺の授業で寝てしまった私は、放課後に呼ばれていることを忘れて、そのまま帰宅したのだ。
今朝のホームルームの時、あの高嶺が微笑みながら…
と爽やかに言われたのだ。
あれは気持ち悪すぎて全身に鳥肌が立った。
普段、まったくと言っていいほど笑わない高嶺が笑っている。
しかも爽やかに。
クラス中の誰もが恐怖を覚えただろう。
今日は仕事があるから早く帰りたいのに。
口に の中に入っている飴を噛み砕いた。
職員室のドアを開け、高嶺の姿を見つけて、そーっと背後に立つ。
高嶺が驚いた様子で振り返る。
高嶺が困った様子で私を窺っている。
イライラしていた気分が少し和らいだ。
反省文を書かなくていいなら帰らせてほしい。
話をしたいって、こんな時に話す内容って嫌な予感しかしない。
申し訳なさそうに早く帰りたいことを伝える。
…ホントは『申し訳ない』なんて思ってないけどね。
やっぱり、このことだ。
祐美が姫になんてなるから面倒なことが私にも回ってきた。
今まで私に興味を持たなかった高嶺が話す内容って、これしかない。
鞄から飴を取り出したい衝動に駆けられるが、どうにかその要求を抑え込む
私の情報はある人が厳重に守ってくれているから流出することはない。
必要最低限の住所や生年月日くらいしか出てこないだろう。
だから、高嶺が私の情報に少しでも違和感を抱いたことは凄いと認めよう。
職員室から出た瞬間、鞄からオレンジ味の飴を取り出し口に含む。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。