その春樹のたった一言で冷めてた心が温まる。
私の気持ちを理解してくれることが何よりも嬉しい。
春樹はどんな私でも受け入れてくれる、それがどれだけ嬉しいことか…。
もうこの人達と同じ空間にいるのも嫌だ。
見たくもないし、同じ空気を吸いたくない。
私は席を立った。
春樹と航を横目で確認してドアに向かう。
高嶺からかけられた声で、春樹のイライラは爆発したらしい。
表情が消え、抑えることなく殺気を放っている。
高嶺は春樹の殺気に怖気づき、息を呑んだ。
その空気に耐えられないのか、クラスメイトは…体を震わせたり、涙を浮かべたり、顔を真っ青にしたりしている。
航も一瞬だけ肩を震わせたものの…裏の世界に関わっているだけあり、すぐに平然とした。
春樹は気が収まらないのか、高嶺を睨み続けている。
私の隣にやっと来た2人は不服そうにしている。
教室を出る際、春樹の睨みがよほど堪えたのか、高嶺はもう注意をしてこなかった。
この2人と歩いていると、当たり前だけど視線が集まる。
女子は顔を赤くして叫び、媚を売ってきてうるさい。
私に向けられるのは、佑美と比べているような視線。
そっくりだとか、佑美よりどうだとか…。
そんなことが聞きたくなくても耳に入ってくる。
私は苛立ちに耐えられず、口の中の飴を噛み砕いた。
そんな私に気づいた春樹は、何も言わずに手を握り締めてくれた。
旧校舎までの距離を、これほど長く感じたのは初めてだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!