どうしよう。動けない。
ニマーッと笑う彼は、満足そうな、嬉しそうな…まるで、欲しいおもちゃを買って
もらった幼児のようだった。
ななもりは私の手首を片手で固定すると、
空いている手ですぅっと頬をなぞった。
恥ずかしくなってきて、視線を逸らす。
対抗する手段がない限り、落ち着いて援軍(?)を待つしかないだろう。
そう思っていたのもつかの間。
視線を逸らしたままだった。
でもこんな状況で顔を向けられるわけない!
はわわわわ!!
なんだあのイケメン男子!!
そこらの女とは違って面食いじゃないけど、アレにはやられるぅぅっ!!
チラリとも顔を見られなくなってしまった私は、目をつぶった。
それはそれはもう、ギュッと。
慌てて反論しようとして顔を向ける。
そして私は固まった。
…近い。その距離わずか10センチ。
そこでバチッと目が合ってしまったのだ。
思わず、また顔を逸らして同じ姿勢に入る。
あぁ、顔から火が出そうってこういう感じ
なんだ。心の底からそう思った。
ピチャリ。
反応するより先に、首筋を舐められる。
卑猥な音と共に、ななもりの舌先が私の首をなぞっていく。
生々しいものが首筋を這い、徐々に上に
上がっていく。
低い声が頭の中で反響する。
耳元で囁かれ、もうたまったもんじゃない。
っていうか鳴き声ってなに?
意外とS属性なの?あなたは。
そんなことを考えていたが、だんだんとそのくすぐったさに思考がストップしていった。
あああ!!
さとみ…莉犬くん…るぅと…なんならジェルでも、ヤギ悪魔でもいい!
助けを懇願するのは初めてだ。
でも、今回ばかりはそれしかないと思った。
…しかし。
ドサッ
唐突にななもりが倒れ込んできた。
なんだろうか。
力も抜けているのでやっぱり重い。
いや、このくらいの魔物にしては軽いな。
そう思っていると、ようやく救助が来た。
悲しそうな目で私を見る。
私に指図したり悲しんだり…なんだこいつ。
喜怒哀楽激子杉(きどあいらくはげしすぎ)くんって呼んでやるぞ。
※あなたなりに出木杉くんによせたようです。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!