大きなバッグに荷物を詰め、お母さんの元へと帰ろうと考えた。
あんな事を告げられて、何のともなかったかのような生活なんて絶対に無理。
みんなの事は大大大大好き。
それに、この生活も凄く好き。
でも、さっき、されたカミングアウトのタイミングにもきっと何か意味があるんだ。
私が家に帰った方がいいと言う神からのお告げ?的な。や、まぁ、違ったとしても、いい機会だ。帰ろう。
えっ、、。
リビングから追い出した、そらの声がドアの向こうから聞こえて来た。
学校。
こんなもん、本当は行きたくない。
この、優しい声。
胸が苦しくなる。
苦しい日々が記憶の中でフラッシュバックされ、私の心と身体をズタズタにして行く。
消えてしまいたい。
震えた手と震えた声をどうにか抑えようとした。喉を抑え、声が真っ直ぐ通るように、手を握りしめ正常になるように。
扉が開き、私を後ろから優しく包み込んできた。
耳元で囁く吐息。私の震えは彼の体温でかき消された。
落ち着くんだ。何故か。この匂い、この暖かさ、この声に。
ぎゅっとさっきより強く締め付けられた。
涙は私の頬をつたって落ちていった。
違う、吹っ切れてなんかない、今でも好きなのかもしれない。でも、本当に好きなのかなんて自分でもわからない。
私の決意に狂いはない。
私を後ろから包んでいたその手を無理矢理ほどき、大きな荷物を持ちお母さんの元へと向かった。
早朝の空に彼の声が響いていた。その声に、振り向かない。足を止めない。泣かない。
そう思いながら、私はひたすら歩いた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。