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第5話

Stage1-2
――夢は、ショコラティエになることです!
あれは中学に入学したばかり。忘れもしない、はじめてのクラスでの自己紹介。
宇瑠が意気揚々と宣言すると、教室にはどこかしらけた空気がひろがった。
――はい出ましたー、男ウケ狙いのヤツ!
――要するに『お菓子屋さんになりたいです!』でしょ。幼稚園児じゃあるまいし。
――しってる? あの子の親戚、チョコ専門店やってるの。
――知ってる~。親指くらいのちっちゃなやつが何百円もするってママが言ってた。
――高っ! チョコなんて百円でおっきいやつ買えるじゃん。ぼったくりでしょ!
ぼったくりなんかじゃない! 
そう言えればよかった。
量産品のチョコレートと、職人がつくったチョコレートはまったくの別物だ。
手芸で使うパワーストーンが百円で手に入るのに、ジュエリーショップで売っているおなじ名前の石が高価なように。似たように見えても、ぜんぜんちがう。
でも、言えなかった。
中学に入学して、はじめてできる新しい友人関係を、平和にスタートさせたかった。
だからあのときの宇瑠は、あいまいに笑うことしかできなかったのだ。
大好きな祖父と、大好きな祖父のショコラをばかにされているのに、なにかを言う勇気が出なかった。
一番つらかったのは、中一の二月。
バレンタインを目前にしたころのことだ。
あれほどショコラティエやショコラを否定したクラスの女子たちが、祖父のお店に連れて行ってほしいと言いだした。
今思えば、断ればよかったのだと宇瑠は思う。
けれどあの時は、祖父がつくった宝石のようなショコラを見せつけてやりたかった。「すごーい」って感動してほしかった。
そしてむかえた放課後、みんなで『Mimi』をたずね、宇瑠の期待はこなごなに打ち砕かれたのだ。
――わ、やっぱたっか……!
――ねえ、専門店のチョコ、友だち価格でゆずってくれない? 
――は? なんでだめなの? どうせ原価なんて、ひと粒あたり数十円なんでしょ?
原価で買いたいなら、原材料を自分で買ってつくればいい!
ショコラティエは、繊細なカカオを高度な専門知識と高度な技術で最高の状態に高めてスイーツをつくる職人だ。原材料の値段で買えるはずがない! 
そもそも原材料だって、祖父が原産地から厳選した、最高のカカオをつかっているのに!
ショックで、目の前が真っ白になった。
理解されないことに。
そして結局自分は、なにも言えないことに。
中二でクラス替えになり、それ以来、『ショコラティエ』という言葉をずっと封印してきた。
夢をきかれたら、てきとうに「公務員」なんて答える。
またショコラティエだなんて言って、夢を、祖父のショコラをばかにされたくないから。
宇瑠がなにも言わなければ、だれからも否定されないから。
数か月前、中三になるまえの春休み。
風真と出会うまで、ずっと、そう思っていた。
きっかけは、妹に誘われて観にいった、エッグレコードの音楽フェスだった。
その中のイベントの一つとして、アイドルの公開オーディションがあったのだ。
出場者はみんなカッコ良かったけれど、とくに夢中になって見ていたわけじゃない。
けれどそれは、スカート姿の白雪風真の登場で一変した。
会場は一瞬で静まりかえった。
そしてはじまる、「マジ?」「やだぁ」の声。
しらけた冷たいクスクス笑いに、宇瑠はゾッとした。
そのときの空気は、宇瑠が「ショコラティエになりたい」と言ったときのクラスの雰囲気にとてもよく似ていて、胃がぎゅっとひきしぼられるような感覚がした。
怖い、と強く思った。
それなのに。
白雪 風真
白雪 風真
俺は、夢を叶えて、夢の先へ行きたい! どうかよろしくお願いします!
会場のいやな雰囲気をものともしない、堂々とした自己紹介に、観客の目は変わった。
そして、冷ややかな空気を自力でぬり変えた風真の姿に、宇瑠は胸を打たれたのだ。
どんな環境にいても自分を貫こうとする風真は、すごく輝いて見えた。
――わたしも、あんなふうになりたい……!
強く、強くそう思ったのだ。