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第10話

Stage2-4
そうだ。
彼女の苗字はポストで知った。それはまちがいない。
あの、ドルチェ部屋をあたえられたはじめての日、廊下でこの子にあった。
握手会の日だ。
でも、あった瞬間に思ったのは、『握手会にきてたファンの子だ』ではなく、『あのオーディションのときの子』だった。
風真ばっかり見て、沙良をまったく目にうつさなかった子。
沙良がトスしたブーケをはじき落とした子。
なんだか腹がたって、さらに腹をたてさせる相手の名前を知っておきたくて。
帰りぎわ、ポストの苗字をちらっとだけ見た。
でも、それだけだ。
覚えていようと思ったわけじゃない。
なのにいま、自然と口からその名前が出ていた。
塔上 沙良
塔上 沙良
(なんで……?)
ちら、と相手の顔を見る。
平凡な顔だ。身長も平均的。
着ている服も、おしゃれとは言えない。
平凡なTシャツに、スポーツメーカーのハーフパンツ。
クツもいかにも運動しやすそうな、ランニングシューズだ。
塔上 沙良
塔上 沙良
(これっぽっちもタイプじゃないね)
沙良は自他ともにみとめる面食いだ。
ギリシャからは「もっと内面をみろ」とか言われたが、外見がよくて内面もよければ、それにこしたことはないと思う。
ちなみにギリシャのタイプをきいたところ、「やっぱ胸がデカイ子だろ!!」と力説してたので、もうあいつの話はいっさいマトモに相手しなくていいと思う。
塔上 沙良
塔上 沙良
君、肌荒れしてるよ
王子 宇瑠
王子 宇瑠
なんですかとつぜんっ!
ぎょっとしたように彼女は飛びのいた。
塔上 沙良
塔上 沙良
目の下もすごいくま。もうすこし美容に気をつかったら? 女の子なんだし
王子 宇瑠
王子 宇瑠
うぅ、塔上くんはもうすこし、べつなところに気をつかったほうがいいと思います
うらめしそうにそんなことを言うが、実際彼女の目の下はかなりひどいことになっている。
コンシーラーでごまかしてはいるが、そうとうな寝不足に見えた。
顔色だって悪い。
塔上 沙良
塔上 沙良
もしかしてそのカッコって、いまからランニングでもする気? 走ってないで寝たら?
王子 宇瑠
王子 宇瑠
大丈夫です。ランニングは毎日やるって決めてるんで
塔上 沙良
塔上 沙良
ダイエット? ムダだと思うけど
王子 宇瑠
王子 宇瑠
ちがいますっ! ダイエットじゃないし、ムダじゃないですっ。だからもー、もうすこし気をつかってくださいっ。女の子にたいしてその言いかた!
彼女はハムスターのように頬をふくらませているが、沙良としてはしっかり気をつかったつもりだった。
寝不足は肌も荒れるし、太りやすくなる。
ダイエットなら、くまをつくって走るよりも寝たほうがいい。
沙良が口をつぐむと、彼女はふぅっと息をはいた。
王子 宇瑠
王子 宇瑠
……まあ、たしかにカロリー消費を期待してないわけじゃないんですけど……
塔上 沙良
塔上 沙良
なんだ、やっぱりダイエットでしょ
王子 宇瑠
王子 宇瑠
でもそっちがメインじゃないんですよ。インスピレーションをさがしながら、あっちの川沿いをずっと走るんです。美は自然のなかにあるっていうのが、おじいちゃんの教えで
塔上 沙良
塔上 沙良
インスピレーション? 美?
王子 宇瑠
王子 宇瑠
そうです。頭をからっぽにして走ると、川のきらきらした光りだったりとか、水鳥の羽の一枚一枚だったりとか、ちぎれて流れる雲だったりとか、そういうものの美しさがストンって直接心に入ってくるんです。そういうのが、あたらしいショコラのアイデアにつながるっていうか
塔上 沙良
塔上 沙良
ショコラのアイデア……?
王子 宇瑠
王子 宇瑠
はい。わたし、ショコラティエになるのが夢なんです
彼女はちょっとだけ恥ずかしそうに、けれどもしっかりと沙良の目を見て、にっこりと笑って答えた。