ためらいがちにかけられた声に、ふり返った。
そう差しだされたのは、さっき捨てたばかりのスマートフォン。
差しだしていたのは、さっき話題にのぼったばかりの風真ファンの女の子だった。
うすピンク色のハンカチにつつまれて、スマートフォンはまだヴーッヴーッとしつこい着信を告げている。
舌打ちをして相手を見る。
よけいなことをしてくれた。
いら立ちまぎれに冷たい視線をおくると、彼女は目をまん丸くした。
たしかにな、と思う。
いまのところ、おなじマンションなのをいいことに風真に近づこう、なんてことはしていない。
それどころか、風真から逃げているのを知っている。
言うと、彼女はすこしだけ困った顔をした。
こんどは沙良が目を丸くする番だった。
落としましたよ、と声をかけたのは、うけとるときに沙良が気まずくならないようにか。
「はい」とは言わず、彼女はただにこっと優しくほほ笑んだ。
スマホをひろうさいに、水がかかってしまったのだろう。
肩でさらさらとゆれる髪からも、ちょっぴり水滴がたれている。
ほっときゃいいのに。
スマホを不用心に捨てようとしたのは沙良だ。
自分が悪い。なのに。
相手はおどろいた顔をしたけれど、じつは言った沙良本人が、一番自分におどろいていた。
さらりと答えたけれど、心の中はみょうに動揺していた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。