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第8話

Stage2-2
塔上 沙良
塔上 沙良
(どいつもこいつも……)
いら立ちをまぎらわせるようにスマホを手にして、沙良は後悔した。
着信履歴には、ずらりと母親の名前がならんでいた。
目を背けるようにポケットにねじ込むと、すかさずヴーッヴーッと着信を知らせるバイブレーションが鳴る。
舌打ちをしたところで、マンションポーチの小さな噴水が目にとまった。
沙良はためらいもなく、着信を叫ぶスマホを水の中に投入する。
そのままなにごともなかったかのように、裏通りへと足をむけた。
――一人暮らしをさせてほしい!
父親と母親が日本からニューヨークのブロードウェイへと活動拠点をうつすと決めたとき、沙良は両親にむかって、はじめてそう頭をさげた。
おどろく両親に、さらは渾身の演技力でうったえたのだ。
――どうしても日本にのこって、やりたいことがあるんだ。
両親から演技指導が入らなかったのは、これが人生初のことだった。
おろおろする母と対照的に、父は満足そうに笑った。
その笑みがはたして、演技が完ぺきだったことに対するものなのか、一人息子にやりたいことができたことを素直によろこんだものだったのか、それは知るよしもない。
どちらでもいいと、沙良は思う。
願いは叶ったのだ。
ニューヨークから遠く離れた、日本での一人暮らしは許可された。
塔上 沙良
塔上 沙良
……やりたいこと、ね
本当は、そんなものなにもない。
ただ一心に望んでいたのは、両親から離れること。
ただそれだけだ。
――沙良は私たちの子どもなんだから。
物心ついたころから延々ときかされてきた言葉が、耳の奥にこびりついて離れない。
もし沙良の家庭がありふれたふつうの家庭だったなら、それは親が子どもを愛する言葉だとして、うけとれたかもしれない。
けれど、沙良は芸能一家だ。
父は有名ミュージカル俳優。母はもと歌劇団トップの娘役。
そんな両親が沙良にもとめつづけたものは、まぎれもなく自分たちとおなじだけの才能だった。
沙良に、同年代の子どもたちと遊ぶヒマはなかった。
一般的な家庭の子どもが遊んでいるあいだ、沙良はピアノにバイオリン、歌に演技にダンスにと、毎日毎日レッスンに明け暮れた。
子役デビューだって、望んでしたことじゃない。
すべては親が沙良にもとめ、勝手に敷いたレールだった。
――ボクという存在は、なんなんだろう?
学校では、とうぜん浮いていた。
なんのために学校に行き、なんのためにきびしいレッスンをこなし、なんのためにテレビに出るのかわからない。
とうとつに湧いた疑問の答えは、『あの二人の子どもだから』しかなかった。
――沙良は私たちの子どもなんだから。
そうだ。そのとおりだった。
塔上沙良という存在は、『あの二人の子ども』でしかない。
実際、沙良がもっている才能のすべてはあのふたりから受け継いだものだ。
歌もダンスも演技も、なにもかも。
あの鏡張りのダンススタジオで踊ると、よくわかる。痛感する。
鏡の中にいるのは父であり、母だった。
塔上 沙良
塔上 沙良
(ホント、忌々しいね……)
ダンスする自分が嫌いだ。
歌う自分が嫌いだ。
なにをやっても両親の影がちらついてくる。
それなのに結局、芸能界にしか居場所がない自分が、一番嫌いだ。