ゆっくりと、屋上が離れていく。
どんどん遠くなる。
見たことも無い、
想像もしたことないこの景色に、
言葉は出ない。
耳の横で風を切る音が聞こえる。
やっと理解した。
私、落ちている。
格子から顔を出す、たいがが見えた。
なにか叫んでいる。
ありがとう。
でもそっちにはもう行けないよ。
私に人生歩む価値なんて、1欠片もない。
そうだ、これで良かったんだ。
これで_
***
目を開けた。
真っ白。
何も無い空間だけが目の前に広がる。
私はゆっくり座った。
私、死んじゃったのかなぁ?
私、本当に死んじゃったのかなぁ?
ひとつ、涙が零れ落ちた。
そしたら、涙は止まらなくって。
私は
私は
私は
一体何のために生きてたんだろう。
***
『あなた…?』
誰かが私を呼んでいる。
聞きなれた声明るい、大好きな親友の声。
私を守った勇者の声。
心の支えだった彼の声。
誰かが私の手を握った。
目を開けたいけど開けられない。
まるでロックがかかってるみたいで。
開けたい。
目を開けたい。
閉まってた扉を押してみよう。
君とまた会えるように。
眩しい光。
私の苦手な白色の天井。
いぶが目を丸くしてこちらをみる。
顔や身体は色々ぐるぐる巻。
頭には包帯。
溜息をつきながらたいがはその場にしゃがみこみこんだ。
れんは私の頭を撫でてくれた。
なんで私は戻ってこれた?
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!