待って欲しい。
迎えに来た?誰を、私を?
幻聴かと思う。
というよりも結婚ってなんだ。
そんな約束…まず、東雲先輩は私のことが好きだった…?
そう思った瞬間に顔が熱く感じられた。
ふふ、と笑う先輩はさっきの憂い気な表情なんてなく、ただただ幸せそうな笑みを浮かべるだけであった。
ちなみに、私の反応を見る限り分かるように、私は先輩と婚約などしていない。
そんな失礼なことしないしまず気持ちも伝えない。
ドッペルゲンガーでも出たのかと頭がクラクラする。
シロツメクサの指輪あげたでしょ?
と何言ってるんだとでも言いたげな表情で先輩は腰に手をついた。
東雲先輩が何言ってるんだ。
記憶力に自信はなくても断言出来る。
バラ園なんてそんな場所行ったことないし、結婚しようなんて大層なこと誰にも言ったことだってない。
ましてや東雲先輩に。
失礼だったかも…と思いながらも言う。
だってそうとしか考えられないのだもの。
そう言うと先輩怒るんじゃなくて眉を下げて泣きそうな表情になった。
呼び捨てとは。
違うそうじゃなくて、泣くほどなのか?
勘違いって言っただけで泣くほどなのか?
というか嘘つきとは。
嘘なんて何もついてないのに嘘つき呼ばわりとは。
心外だ。
先輩の考えてることが分からない。
私の問いに先輩はものすごく悲しそうな表情をして、その後答えた。
上目遣いで、いたずらをして叱られるんじゃないかとビクビクしている子犬のよう。
そんな顔されると困る。
謎の罪悪感に苛まれるではないか。
先輩の形の良い顔を恨んでいると、ふと思い出した。
そういえば、昔仲良くしていた男の子がいたという母の話を。
もしかしてそれって
ぽつりと出た一言。
誰の名前かも分からないけど妙に懐かしさを感じた。
対する先輩は目を大きく見開いた。
私に詰め寄った先輩を私が1歩下がることで先程と同じ距離をとる。
そのあっくんと東雲先輩が同一人物なのか分からない。
でも、それを、明確に出来ない自分の記憶能力を恨みたい。
そんな中、謝る私に対して先輩は
なんて優しい声をかけてくれた。
結局はどこまでも優しい先輩ににこりと微笑む。
関西弁であるじゃないか。
あの一言入れるだけで全ての責任から逃れることができるもの。
先輩は多分優しい、知らんけど。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。