第5話

多分、嘘つきじゃない
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2020/08/07 14:40
夏鈴(かりん)
へ?
待って欲しい。
迎えに来た?誰を、私を?
幻聴かと思う。

というよりも結婚ってなんだ。
そんな約束…まず、東雲先輩は私のことが好きだった…?
そう思った瞬間に顔が熱く感じられた。
新(あらた)
あれ?照れてる?
ふふ、と笑う先輩はさっきの憂い気な表情なんてなく、ただただ幸せそうな笑みを浮かべるだけであった。
夏鈴(かりん)
い、いや、そうじゃなくて、あの、結婚って…?
ちなみに、私の反応を見る限り分かるように、私は先輩と婚約などしていない。
そんな失礼なことしないしまず気持ちも伝えない。
ドッペルゲンガーでも出たのかと頭がクラクラする。
新(あらた)
え?したよね?あのバラ園で
シロツメクサの指輪あげたでしょ?
と何言ってるんだとでも言いたげな表情で先輩は腰に手をついた。
東雲先輩が何言ってるんだ。
夏鈴(かりん)
全く記憶にございません
記憶力に自信はなくても断言出来る。
バラ園なんてそんな場所行ったことないし、結婚しようなんて大層なこと誰にも言ったことだってない。
ましてや東雲先輩に。
夏鈴(かりん)
先輩の勘違いじゃなくて?
失礼だったかも…と思いながらも言う。
だってそうとしか考えられないのだもの。
そう言うと先輩怒るんじゃなくて眉を下げて泣きそうな表情になった。
夏鈴(かりん)
せ、せんぱい?
夏鈴(かりん)
あ、も、もしかして、その何か悪いこと…?
新(あらた)
嘘だったのかな?
あの時の約束は、嘘だったの?
新(あらた)
夏鈴ちゃんは、夏鈴は嘘つきだったのかい?
呼び捨てとは。

違うそうじゃなくて、泣くほどなのか?
勘違いって言っただけで泣くほどなのか?

というか嘘つきとは。
嘘なんて何もついてないのに嘘つき呼ばわりとは。
心外だ。
先輩の考えてることが分からない。
夏鈴(かりん)
いや、その、い、いつしたんですか?
婚約を…
私の問いに先輩はものすごく悲しそうな表情をして、その後答えた。
新(あらた)
俺が、6歳のとき
夏鈴が4歳だったときだよ
上目遣いで、いたずらをして叱られるんじゃないかとビクビクしている子犬のよう。
そんな顔されると困る。
謎の罪悪感に苛まれるではないか。
先輩の形の良い顔を恨んでいると、ふと思い出した。
そういえば、昔仲良くしていた男の子がいたという母の話を。
もしかしてそれって
夏鈴(かりん)
あっくん…?
ぽつりと出た一言。
誰の名前かも分からないけど妙に懐かしさを感じた。

対する先輩は目を大きく見開いた。
新(あらた)
思い出してくれたんだ…!
夏鈴(かりん)
い、いや!違います、その、あっくんは…
昔!母から聞いた男の子で、多分、はい…
私に詰め寄った先輩を私が1歩下がることで先程と同じ距離をとる。
夏鈴(かりん)
だから、その、思い出したとかは…ない、です…
夏鈴(かりん)
ごめんなさい…
そのあっくんと東雲先輩が同一人物なのか分からない。
でも、それを、明確に出来ない自分の記憶能力を恨みたい。
そんな中、謝る私に対して先輩は
新(あらた)
大丈夫、思い出せなかったか
新(あらた)
それでも、嘘つきじゃないことは分かったから大丈夫だよ
なんて優しい声をかけてくれた。
夏鈴(かりん)
先輩…
結局はどこまでも優しい先輩ににこりと微笑む。
新(あらた)
まあ、とりあえず思い出させるように頑張りはするけど
関西弁であるじゃないか。
あの一言入れるだけで全ての責任から逃れることができるもの。

先輩は多分優しい、知らんけど。

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