じーっと見つめる親友の優奈がリップを塗った口を開いた。
日本人にしては珍しい、色素の薄い瞳が私を映す。
私の戸惑いとも受け取れる声を聞くや否や、満足気な表情を浮かべる。
だがそんな表情も束の間、彼女は私がそうだと頷いた逆の、右側のトランプ、ハートのエースを引き抜いた。
がっくしと肩を落とすと、前の席の白石先輩かがへらりと笑って言った。
今年から花の女子高生。
入学式から2ヶ月経った私たちの昼休み、特に晴れた日は旧校舎の中庭のベンチテーブルでこうやってババ抜きをしている。
「嘘つきは泥棒の始まり」と教えられてきて16年。
今までの人生で嘘はほとんどついていない。
昔はそれが自慢であったが、今では正直短所だと思っている。
テーブルに人差し指で丸を描き続けていじけていると
さらりとかっこいいことを言ってのけた彼は私の2つ上の東雲新先輩だ。
見た目がかっこいいのはもちろん、誰にでも優しくて人望の熱い先輩は私の想い人でもある。
まあ、私と先輩では全くと言っていいほど釣り合わないので気持ちを伝える気はさらさらないが。
そういえば、何故1年生の私たちが、こんなかっこいい3年生といるのか。
理由は簡単、優奈と白石先輩がいとこ同士で仲がいいからだ。
そこに、私と東雲先輩がお邪魔しているというか、一緒にいる、そんな感じである。
白石先輩がパチンと手を叩き立った。
時計を見るとあと10分ぐらいで予鈴が鳴りそうだ。
みんなで頷いて私も立ち上がり教室へ戻ろうと校舎に足を向ける。
いつもと同じような会話。
楽しくて面白くて、ついつい笑ってしまう。
それに東雲先輩の笑顔も見れる。
ちらりと見るとふわっと笑ってくれたので、ありがたや〜と手を合わせるとチョップされたのだが。
そうなのだ。
ローストビーフみたいな、なんかやばいお肉が入っていた。
あまりに美味しそうで見つめていると1つくれたので食べたのだが、あれは目を剥く美味しさだった。
そして、そんな私の問いかけに対する東雲先輩は
そうかなあとミルクティー色の髪を少しいじる先輩。
謙虚でやっぱりかっこいい。
くすくす笑う優奈。
あれはほんとに食べて欲しい。
めちゃくちゃ柔らかくて、ほんと、歯がとろけるかと思った。
そんなローストビーフの味を思い浮かべていると、白石先輩が危ない!と焦燥感のある声をあげた。
少し驚いて周りをキョロキョロ見渡すと、グラウンドでサッカーをしていた先輩達の蹴ったサッカーボールがボルトもびっくりの速さで私に向かって迫ってきていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。