朝________。
眩しさと朝の冷え込みに怯え、芋虫のように包まる。
出たくない、起きたくない、布団と結婚したい、と懇願するも、その夢は叶わない。
廊下を走る音が聞こえ、部屋の襖が勢いよく開くと、「スゥ───ッ。」と息を深く吸い込む音が聞こえ、私は身構えた。
月子は布団を引っ張るも、さすが柱と言わんばかりビクともしない。そう…この芋虫では無く、尊敬しているであろう師範は、柱。
””雪柱・雪華あなたである。””
この野郎…と月子は怒りを抑えつつ、例の奴を呼ぼうと嫌ぁな笑みを浮かべる。
慣れた仕草で指をパチンッ!と気持ちよく鳴らし「お願いします。」と、バサバサ羽の音が徐々に近づく。
鎹鴉が部屋に入るや否や、芋虫状態の師範に向かって、上から突く。
しかし、鎹鴉は諦めない。目を光らせ、物凄い速さで、キツツキの如く布団を突く…遂には布団に、穴が空き、そこからモゾモゾと侵入する。
外から見ると、布団はボコボコと暴れだし、師範の悲鳴が部屋に響き渡る。ついに、堪らず布団を脱ぎ捨て、逃げようとするが鎹鴉は容赦なく、足元や尻を突く。
適当に返事をして、手を離し、そのまま身支度を眠そうに済ませる師範。廊下で待っていた私に、あくびをしながら、屋敷内の道場に移動するように促す。
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月子と刀の稽古をして、2時間が経った。
道場の上にある時計を見ながら、月子の様子を見る。
月子は雪華に、頭を下げ、2人は身なりを整える。
師範は汗を吹き、着替えを終えると、化粧台の前に座る。「失礼します。」と私は白粉を手に取る。
白粉を整え、紅に筆をつけ、師範の唇に色を飾る。師範の母上は元、吉原遊廓の花魁だった。私もあそこにいた時期はその、名前を知らないものは居なかった。
本当に師範は、鬼殺隊に居るのが勿体ないと思うぐらい、母上に似て整った顔立ちをしていらっしゃる。
師範から久しぶりに聞いた、「死なないでね。」と言う言葉と、何とも言えない哀しい笑顔に、私は「大丈夫ですよ!」と強気な口調で訴えた。
部屋を出て、居間の方へと足を運ぶ。
すると魚の香ばしい香りと、米の胃袋を付くような匂いに、2人は誘われ台所へと顔を覗かせた。
お皿に綺麗に盛り付ける2人がこちらに気づき、笑顔で答えた。
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居間で師範と待っていると、すぐに朝食が運ばれてきた。
2人の頭を撫で、久しぶりの師範との朝食に笑みがこぼれた。
朝食を私よりも早く済ました師範は、食べた皿を台所に持っていこうとしたが、2人に止められ取り上げられてしまう。
扉を開け、気づくと師範は小さく見えていた。
師範、貴方は本当に...私の尊敬する師匠で、柱です。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!