目覚まし用の音楽とスマホの振動音で、あなたは目を覚ました。
重い瞼を上げて体を起こす。
陽の光の差す窓。いつもの自分の部屋、いつもの目覚まし。
目覚ましを止めてスマホの通知を見ると、昨日のドズル社の動画の通知や、ツイッターの通知が重なっていた。
マイクラの世界に入り込んでしまい、おんりーに会ったこと、エンドラを倒したことを思い出して、慌ててツイッターを開いた。
いつもと変わりなく、自分のツイートした覚えのある投稿は昨日の日付になっている。
おんりーのツイートも更新されていて、特に変わったことはない。
洗面所へ行き、自分の姿が写った鏡を見て息を飲んだ。
髪には、赤いポピーが差してある。
紛れもなく、おんりーにもらったポピーだ。
"また会うよ"
おんりーの言葉を思い出す。
未だに現実だと信じていいかわからず、それでも確かに残る記憶に心臓がドクドクと音を立てる。
おんりーは有名な実況者。
SNSのメッセージ機能を使っても返事がある確率はほとんどないし、ファンレターだってスタッフさんが目を通す。
マイクラの世界で会いましたなんて伝わりそうではないし、怪しまれそうで迂闊に声をかけることはできない。
ふと時計を見ると、朝の8時半を指していた。
ポピーの花を小さな花瓶に差し、ドタバタと準備をして家を出る。
駅の改札を通り、ホームに立って。
そんな日常の通勤をもう何年もしていないくらい昔に感じて、何度も道やホームを確認しながら電車に乗った。
今日から、またいつもの日常へ戻る。
あなたは必死に地に足をつけて、電車に揺られていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!