【おんりーside】
撮影を終えてドズル社メンバーとの通話を切ると、おんりーは伸びをした。
すぐにピロンと通知の音がして、メッセージを確認する。
おらふくんからの心配の一言だった。
先程のエンドラ討伐系企画の撮影で、おんりーらしからぬミスが続いてしまったのだ。
ネザーでロッドを持ったままマグマダイブしてしまったり、エンドラ戦でリスポーン設定を忘れ落下死してしまい、初期位置に戻ってしまったり。
やらかしぼんさん以上にやらかしていたのである。
おんりーもそういう時だってあるよ、とドズルさんは励ましてくれたが。
確かに最近、活動に集中できていないところがあった。
というより、焦っているのだ。
あなたさんとまた会うことを約束し現実世界へ帰ってきてから、ひとつも彼女と連絡を取る手段を確保できていない。
実況者というのは思ったよりも身動きが取れないものだった。
それだけおらふくんに返信してスタッフさんからの連絡メールに目を通すと、毎週収録しているパルクールマップの連絡がきていた。
脱出系みたいなタイトルのマップだな。
少し一人でプレイしたかったし、パルクールマップの下見に取り掛かることにした。
砂漠から始まり、爆発で地下の洞窟へ落とされるギミックを通る。
ブロックとりんごが手に入り、ブロックを置きながら地上へ向かってテンポよく登っていく。
村を駆け抜け、ネザーイン。
不思議に思いながらりんごを使う要素の見当たらない赤森を、ホグリンに追われながら走り抜ける。
そして、マグマの流れる滝でマグマボートチャレンジ。
おんりーにとったら、それももう手馴れたもの。
3つのボートを使ってテンポよくぴょんぴょんと移動する。
しかし、最後のボートを使った直後向こう岸は見えなくて、一気にマグマの海へ向かって落ちる。
マグマに浸かった瞬間に耐火がついて、焼け死ぬこともなくリスポーンもできずに浮いたまま止まってしまう。
そういえばパルクールマップの説明を添えてくれたスタッフさんの文章に、途中のマグマでは下へ進むような指示があった気がして、あえてマグマの中へ沈んでみた。
どうやら正解だったようで、下の空洞からネザーを出て今度はエンド要塞。
シルバーフィッシュがわらわらと出てくるコースを抜けて、暗いエンドの世界観に変わる。
難しい配置のエンドストーンブロックを走り抜け、ゴールらしきエンドラの祭壇。
思わず立ち止まった。
いつかこのコースを辿ったことがある気がして、冷や汗のようなものが出てきた。
祭壇にある感圧版を踏むと、いつの間にか手元にあったりんごの代わりに赤いポピーが手に入る。
何秒かすると、スタート地点へ帰ってきた。
砂の落ちる洞窟。
手渡した赤いりんご。
のんびり食料調達をした村。
ホグリンに襲われた赤森。
一緒に落ちて耐火ポーションを共有したマグマ。
一緒に倒したエンドラ。
最後に手渡した赤いポピー…。
あなたさんとエンドラ討伐を目指した時の全ての記憶が蘇り、慌てて制作者の名前を確認した。
そこには二つの名前がある。
一人は時折パルクールマップを作っている人なので分かったが、もう一つの名前は初めて見た。
"足に矢を受けたポテト"
意味が分からなかった。
意味が分からないのに、意味が分かってしまって少し笑ってしまった。
いつからポテトになったんだ君は。
木の器にブレイズロッドを乗せたことがそんなに印象的だったのだろうか。
今更ながら少し恥ずかしくなる。
おんりーは、さっき開いたおらふくんとのメッセージ画面を開いた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。