第3話

3.茅ヶ崎至 , 卯木千景
74
2023/11/05 09:00
卯木千景
おい、茅ヶ崎。起きろ
茅ヶ崎至
あ…?…は?なにここ。
先輩に起こされること自体レアなのに、存じ上げない部屋にいるんですけど。誘拐?何?は?
茅ヶ崎至
…って、何アレ…
茅ヶ崎至
「どちらかが死なないと出られない部屋」?
卯木千景
バカバカしい。
茅ヶ崎至
マジでなにこれ。ゲームとか、マンガとかの世界に入りたいとは思うけど叶わなくていいし、困るし。
卯木千景
とりあえず、死ななくても出れる方法を探すぞ。埒があかん
茅ヶ崎至
そっすね。ま、チート先輩いるし勝ち確…
卯木千景
早くするぞ、茅ヶ崎。
茅ヶ崎至
はいはーい。とりま部屋探索しますわ。
卯木千景
勝手に死ぬのは無しだからな。
茅ヶ崎至
そっちこそ、死なないでくださいよ。…ってやべ、このやり取り結構まずいかも。
卯木千景
…はあ…
茅ヶ崎至
はいはい、調べますよ!!
なんで先輩と話しながら、物色していく。
茅ヶ崎至
うわ、ナイフ。しかも多分本物。
卯木千景
こっちには銃があるぞ
茅ヶ崎至
はあ、ドッキリにさせてくれない感じ?…ねえ待って怖い、千景さん銃をこっちに向けないで
卯木千景
弾が入っていないから平気だ
茅ヶ崎至
俺の心臓が平気じゃないです
はあ、全く…先輩はドキドキ(ある意味)させるのが得意なんだから。
卯木千景
…他に何も見つからないな
茅ヶ崎至
マジか。殺し合いBADENDキタコレ?
卯木千景
ふざけている場合じゃないぞ。
茅ヶ崎至
ハイ、すいません。
そう会話を交わし、「これ、ほんとにまずいやつだ。」そう感じる。
卯木千景
…壁は見る限りもろそうなんだがな。ナイフを刺そうとしたってビクともしない。
茅ヶ崎至
マジか。あの先輩でも無理とか終わった。次の人生に期待。
卯木千景
茅ヶ崎は俺をなんだと思ってるんだ…。
いつも通りを装っているけど、ぶっちゃけキツイ。
唯一無二の家族を失う可能性があるのに、なんでヘラヘラしなきゃいけないのか。
怖い。怖くてたまらない。

そんな俺を隠すために平然を装って、恐怖という気持ちを飲み込もうとする。
茅ヶ崎至
(…これ、先輩が見てないうちに死んだら、恨まれるかな。)
…はは。銃口って、自分で向けても意外と怖ぇや。マンガとかで自害するやつとかいるけど、こんな怖いことなんて、知らなかった。
そう呑気に考えてた。













卯木千景
…何やってるんだ
茅ヶ崎至
…先輩
卯木千景
自分が死んだ方がいいと思ったか?
茅ヶ崎至
…さあ。生きたくない訳では無いけど、生きたい訳でもないです。
卯木千景
…奇遇だな、俺も一緒だ
茅ヶ崎至
はは。なら、殺し合いでもします?
卯木千景
丁重にお断りさせてもらう。
茅ヶ崎至
…咲也たち、元気ですかね。この部屋に、もし誰かと閉じ込められていたら…どうしましょう
卯木千景
…分からない。
茅ヶ崎至
…?先輩?
卯木千景
なあ、茅ヶ崎。
卯木千景
俺はな、劇団に入る前。人を殺していたんだ。
卯木千景
劇団に入る理由も復讐だった。
茅ヶ崎至
…せんぱっ…
これ、ダメなやつだ。
そう思った。
卯木千景
先輩は、思いっきり俺を蹴飛ばした。
茅ヶ崎至
っ、ごほッ…!?
卯木千景
オーガストと…ディセンバーと…人を殺し続けた。
卯木千景
それでも幸せだった。だって、俺たちは家族だったから。
卯木千景
でも、幸せが崩れるのなんて一瞬だ。
上手く、立てない。
蹴りを入れられたところが痛くて堪らなくて、先輩に近づきたいのに、近づけない。
卯木千景
何も悪くないディセンバーを恨んで、本当に「家族の絆」を潰しかけた。
卯木千景
それでも、お前たちが認めてくれた。…感謝してるよ
茅ヶ崎至
やめて、せんぱい
卯木千景
でもさ、ここで茅ヶ崎を見殺しにするのも、茅ヶ崎を自分の手で殺すのも。嫌なんだ。
卯木千景
どうせ地獄に行くことは確定してるしな。…だから、こんな選択をとった。
茅ヶ崎至
嫌だ、やめろ…
卯木千景
__ごめんな、茅ヶ崎。…MANKAIカンパニーを、よろしく頼む。
茅ヶ崎至
まって、ちかげさ__
まるでスローモーションだ。
目の前には、大量に血を流す千景さんがいて。
こんな俺が見ても、「助からない」とわかるほどの出血量だった。
でも、諦めたくなかった。
茅ヶ崎至
ちかげさっ…ね、おい…!!
蹴られた部分も、蹴り飛ばされた時にぶつけた足も、何もかもが痛い。動けないほどに痛い。
でも、千景さんは_もっと痛い。

何が、「MANKAIカンパニーをよろしく頼む」だよ。こんな俺が、できるわけないだろ。
ふざけるな、1人でも欠けたら、ダメなんだ…嫌なんだよ、やめろよ。
茅ヶ崎至
…なんで、死んでんのに…幸せそうな顔してんだよ、バカ先輩
ふざけるな。
「地獄行き」?そんなの、今千景さんを見殺しにした俺だってそうだろうが。
茅ヶ崎至
っ、…ほんとに、ばか…、
幸せが崩れるのは一瞬。…そうだよ、そうなんだよ。
茅ヶ崎至
ちゃんと、わかってんのに…なんで、俺の…卯木千景の、MANKAIカンパニーの…ッ、幸せを崩したんだ、なあ…ッ!!!!!
じくじくと痛む体に、ガチャリと音を立て開く扉。
ああ、千景さんは死んだんだ。
そして、俺は_
茅ヶ崎至
見殺しに、した。



__死亡者、3名

プリ小説オーディオドラマ