第11話

いつまでも
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2021/03/12 15:38
私は誰も傷つかず、自分が人間になることを強く願った。
そしたら、急に彦が倒れた。意識がない。何度も彦の名前を呼んだ。
突然の出来事に私は混乱した。幸いなことに病院にいたので看護師がかけつけてくれた。
彦は願いを叶えるまで何事もなかった。彦の力に何かあるのではないかと思った。
彦はその後、意識を取り戻すことなく入院した。
私は毎日、彦と夏樹の見舞いに行った。夏樹はすぐに意識を取り戻した。
彦は相変わらず意識が戻らない。
今日も二人の見舞いに行くとそこには、織姫さんが夏樹の看病をしていた。

「夏樹、具合はどう?」

私は少し負い目があった。
夏樹に怪我を負わせたのは私のせいだ。

「もう、大丈夫だよ。この通り元気元気!」

夏樹は私たちを安心させようとしてくれているのだろうか。
彼には謝りたい気持ちがこみ上げた。

「夏樹君、無理しないで。まだ傷が癒えてないから」

織姫さんはリンゴの皮を向いている。
織姫さんもまた、毎日、夏樹の看病をしている。
自分を庇った夏樹に対して感謝するところがあるのだろう。

「織姫さんが看病してくれるから傷口もすぐ閉じるよ」

「もう……」

織姫さんは嬉しそうだった。
まるで二人は昔ながらの親友のような、もしくは恋人のような
二人にしかわからない世界のように思えた。

「かぐやさん、話があるの」

織姫さんが声をかけてきた。私は気分が優れなかった。
彦も夏樹も私のせいで病院にいる。
私は人になれたのに一番喜べることなのに全然、嬉しさを感じなかった。

「ごめんなさい、少し気分悪いの」

「大切な話です。お願いします」

夏樹を残し、病院の屋上まで織姫さんに連れられた。
一体何の用があるのかわからなかった。
早く彦の看病をしたい。でも、私にできることは何もなかった。

「かぐやさん、しっかりしてください!あなたは何千年も昔から生きてきたのでしょう!」

呆然となった。
織姫さんは、私が失ったとはいえ、不死の力を知っている。

「私は春彦君と同じ力を持ってます。私の場合は代々女性が受け継ぐ、織姫の力です」

織姫さんにも彦と同じ力があるということは、私の知らない所で、彦と二人で話をしていたのかもしれないと思った。
私の知らない所で話があったのだとすると、少しわだかまりを感じた。

「かぐやさん、あなたはきっと自分の責任で二人を傷つけたと思ってますよね」

「そうよ、夏樹も彦も私のせいで倒れたわ。幸い、夏樹は一命をとりとめたわ。でも彦は……」

彦は何故意識が戻らないの。やはり私のせいで彦は倒れてしまったのだろうか。
織姫さんは何か知っているのかもしれない。

「春彦君が倒れた理由を教えます。人の願いを叶えたから、私たちは寿命が縮まるの」

「嘘でしょ……そんなこと彦は一度も言ってないわよ」

「好きな人にそんなことを言うわけないじゃないですか!」

自分の願いは叶わないのに命懸けで人の願いを叶える。
忌み嫌われた村で私を助けた時も彦は命を削っていたことになる。
十歳の小さい男の子だと思っていたのに、あの時から私のことを必死で守ってくれた。
私は何千年と生きて、誰かのためにそんなことができただろうか。

「だとしたら、私にできることは……力を失った私にできることは何もないわ」

私は涙が零れた。人であることがこんなに悲しいものだとは思わなかった。
彦のために何もできない自分の非力さを痛感した。

「あきらめないでください!あなたにはできることがある!」

織姫さんは息を切らして私を叱責した。
私にできることがあるならなんでもしたい。
彦のために私だって彼を助けたい。

「私は春彦君のために、願いを叶えてみせる。だから、かぐやさん、春彦君のために願ってください」

「何を……」

「春彦君の彦星としての力を失くすことです」

彦が私を人間にしてくれたように、織姫さんもまた彦に同じことをする。
人の願いを叶える人はどこか強い意志を持っている。きっとそれは願いを叶えて貰うよりも純粋でひたむきに思えた。彦も織姫さんも。

「私だけじゃない、皆が春彦君を失いたくないでしょう?このことは夏樹君とも相談しました。もう彼には無理をしてほしくないの」

「それをするとあなたの体は大丈夫なの?」

「私は一度も織姫としての力を使っていません。私はこれが最初で最後の力として使います。春彦君とは違います。だから安心してください」

「わかったわ。私も彦のために願うわ」

「かぐやさん、あなたとは良いお友達になれると思う」

私もいつまでも織姫さんと友達でいたいと心から思った。
織姫さんだけじゃない、夏樹もそして彦もいつまでも傍にいたい。
だから、彦、あなたが力を失っても共に人として寄り添いたい。
いつまでも……

「あなたの願い叶えてあげる」

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