花菜はぼんやりと授業を聞いていた。
自分が翼の人生を、彼の固定観念を変えることが出来るのだろうか。私は、彼を救えるのだろうか。
祥也と栞奈が目の前に居た。二人共、心配そうな顔を浮かべていた。
祥也にとって好きな子に相談してもらえるなんて光栄なことなのだが、花菜にとっては相談することは不安でしかなかった。もしも、この話を聞いて彼らが翼を避けることなんてするだろうか。
――翼は悪魔の子なの。
昨日、翼の母が言っていたことを思い出す。私は全力で彼を支えられるのだろうか。
栞奈はニコニコと笑っていた。これが彼女の優しいなのだろう。花菜も微笑んで頷いた。
昼休み。花菜は祥也と一緒に空き教室に来ていた。とても静かでここなら誰にも聞こえないと思ったのだ。
花菜と祥也は置かれていた椅子に座って向き合った。花菜は話し出した。
祥也は非現実にしか聞こえない花菜の話を真剣に受け止めようとした。
花菜の目から涙が零れた。祥也は話を理解するのが大変で、花菜の涙を拭ってやれるほど頭がついて行かない。
祥也は涙を流す花菜の頭を撫でた。花菜はハッとしたように顔を上げた。
祥也は苦笑いをして言った。
花菜は祥也の言葉に胸を打たれ涙を流した。
そうだ。全てを知ってる私が彼に伝えなくてどうする。私が動かなきゃ翼を救えない。私が翼を救うんだ。
花菜は涙を拭って立ち上がって祥也に言った。
祥也の言葉に花菜はクスクスと笑った。
花菜が教室を出た時、祥也が顔を真っ赤にしていたなんて誰も知らない。
放課後。花菜は雪を降り注ぐ中、必死に走って翼が居る病室に向かった。早く君を救いたいから。
笑顔で迎えてくれる翼の目の前にある椅子に座った。彼の体には痛々しく包帯が巻かれている。
花菜はなんとか息を整えて翼を見た。
気丈に振る舞う翼に花菜は難しい顔をして言葉を吐いた。
元気そうだった翼の顔が暗くなる。やっぱり大体のことを聞いているようだ。
翼が暴れ出すのも無理はない。大嫌いな父親のことだから。花菜は深呼吸をして続きを話す。
翼の母から父親のことを大まかなことだが教えてもらった。彼がこうなったのは、お父さんの不器用さであるということだ。
花菜の質問に翼は黙った。誰が自分の名前を付けてくれたのか、翼は何も知らないのだ。
翼は頭を押さえ、絶叫する。
一瞬間黒い光に包まれた。その光が晴れると、真っ黒な翼を生やした翼が居た。
その風貌は本当に悪魔のようだった。
驚いていると、また黒い光が現れ、気付いた時には元の翼に戻っていた。
翼は自分の足が動いて驚いた。
翼は元の姿でベッドから降りて歩いている。花菜は首を傾げた。これが、翼の能力なのか。
先程の騒ぎに気付いて駆け付けた医師が驚いていた。急遽退院となった。
廊下に出ると、男が突然話し掛けてきた。自分の名前を知っているということは……。
翼の父は深く頭を下げた。
翼の父は首を傾げた。翼の父は暗いボロボロの世界で生きてきたから、明るい世界を知らないのだろう。今の会話にはそのように思えることも別に無いが、花菜はそこまで推測してしまった。
翼の父は話を変えてきた。とりあえず、能力とはどういうもなのか花菜は知りたい。
とても非現実な話に花菜の頭を追い付けていけない。翼の能力が、世界を変えるとはどういうことだ。
恥ずかしそうに言った翼の父に、花菜は微笑んだ。
翼の父は花菜の言葉に頷いて去って行った。窓の外を見れば雪が降っていた。
私は君を救うことが出来たのかな。君の心に進展があるといいな。




















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。