あたしと兼平くんが出会った林道から人の目に付きにくい少し奥のスペースに向かい合って座り何を話したらいいか分からず赤茶色の中に所々草が生えている地面を見つめていると兼平くんの方から口を開く。
今まで生きてきて1度も見たことが無いほどの眩い光。
眩いでも、息を吹きかけてしまえば一瞬で消えてしまいそう……あたしはなぜかそう感じた。
なぜそう感じたかは分からない。でも、確かに脳裏に感じたことだった。
興味深そうに兼平くんがあたしに問いかける。
色んな難しいことを考えることも大事だけど、とりあえず今はお互いに知らない今を教えあいっこするのも大事だと思う。
時代を知らなきゃ何も出来ないからね。
あたしの言葉を聞いて少し寂しそうな顔をした兼平くんを見ると言葉が喉の奥につっかえて何も出てこなかった。
多分、源さんの時代は幕府が実権を握ってた時代。
兼平くんも武士の1人だからやっぱり朝廷が政権を握ることは自分の今戦う意義ってものが無くなってしまうのかもしれない。
慌ててフォローしようとしたあたしの言葉を遮り兼平くんがそう言う。
その言葉を聞いた時、忘れかけていた真実を思い出す。
ここは打出の浜……そして、目の前にいるのは今井四郎兼平……。
少しだけの淡い期待を込めて問いかける。
兼平くんの口から出た言葉を一番聞きたくない言葉。
1月20日。平成の日付なら3月3日。現代ならひなまつりで美味しいご飯も食べれて、桜も綺麗で、めでたいめでたいってなるかもしれないけど全くそんな嬉しい気持ちにはなれない。
だって、3月4日。明日、兼平くんは死ぬから。
平成のいつかにも感じたこの切ない気持ち。でも、今はあの時の何倍もその気持ちが自分の心の中で育っていた。
それは抑えきれないほどおおきく……。
今にも泣き出してしまいそうなあたしの表情を見つめ兼平くんが心配そうな顔をする。
本人に言えるわけもなくってあたしは話題をすり替える。
あたしが初めてこの物語を初めて聞いた時から聞いてみたかったこと。
物語だけを読んでいたら、なんだか兼平くんはサディスティックに思えたから、本人が目の前にいるならちゃんと聞いてみたかった。
一気に表情が柔らかくなり自分の主君を語る姿をみてあたしは確信した。
兼平くんはサディスティックなんかじゃないってこと。
この時代では人から殺されちゃうことはその人の名誉を汚すことになる、だから、兼平くんは最後の最後まで自分のことなんかよりも主君"木曾義仲"の事を考えて、約束を破ってでも自害を勧めた。
心のどこかに残っていたもやもやが一気に晴れていくのが分かる。
それと同時に気が付きたくない一つの思いも生まれる。
自分の早い心拍を見て見ぬふりして、全て抑え込む────
きっと気のせいだって、これは安心しただけだって。
あたしの事を上から下までマジマジと眺める。
まぁ、現代では普通の制服でも、時代が違えば浮くのは当たり前か。
あ、そうだ。
兼平くんから必死に弁解されて気がつく。
この時代ではもうあたしと同じ年齢な人は立派な大人なのか……。
そう思うと自分の未熟さを身にしみて感じる。
何も出来ない自分がどれだけ未熟かを。
見た目からすれば20代前半って感じかな〜笑
あー、でもなぁ、童顔って意外と歳いってること多いからなぁ、20代後半だったりして。
え、三十三?三十三って三十三?
思いもよらぬ回答で頭が困惑する。
この美貌に童顔で三十三?信じられぬ……。
そういえば、平家物語の中でもそんなことを言ってたような言ってなかったような……。
とにかくあたしの知り合いにはこんなかっこいいアラサーはいない。
あたしが同じ言葉で返すと少し焦ったような顔をする。
はは、今井四郎兼平という男はどれほどの引き出しを持っているのだろうか?
あたしのちょっとした言動で表情がコロコロ変わっていく。
頑固な人なんて思ってたけど不思議な程に馴染みやすい人だった。
この人、今井四郎兼平のこともっともっと知りたいなんて思ってしまった。
今井四郎兼平、いろんな意味で恐るべし。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。