卒業ってなんだろう?
学校を卒業することだけが卒業?
いいや、違う。
学校の卒業なんかより何倍も大事な"卒業"ってものを人間はみんな経験するから。
それを教えてくれたのは、卒業とは縁もゆかりも無い人でした────
2月28日。
親友の色羽(いろは)とそんなことをボヤきながら琵琶湖の見える交差点を並んで歩く。
勉強に対する不安、これから始まる高校生活や恋へのワクワクを抱いて高校に入学して早3年。
あたしもとうとう明日で卒業。
JKブランドを捨てる日がやってくる。
入学する時は夢と希望で溢れかえっていたけどいざ終わってみたらそんなにいいもんなんかじゃなかった。
三年間なんとなく生きて、なんとなく過ごしてたらいつの間にか過ぎてたって感じ。
成績も普通、運動も普通、色気話なんて夢のまた夢。
青春なんて綺麗なもの一つもなかった。
明日高校を卒業し、あたしは春から地元の大学に通う。
別に何かの夢があって進学するわけでもない。
"なんとなく"に過ぎないのだ。
自分のやりたいことも見つからない、かと言ってまだ働きたくもない、子供でいるための言い訳をするために大学に行くのである。
ちなみに、色羽は芸能界を志望だから春から東京に上京する。
学校でも可愛いほうだったし、友達も多くて、彼氏もいて、"青春"って言葉が相応しいような女の子。
高校時代から積極的に動いていたため色羽の所属する事務所はもう決まっていた。
超大手で事務所がホテルみたいな寮を完備、育成から送迎まで事務所が何もかもサポートしてくれるのである。
親友がそんなイイトコ入れて誇らしいはずなのになぜかあたしの心はもやもやしていた。
目を細めて笑いそう言った色羽の顔を見るとなぜかもやもやが心をどんどん蝕んだ。
ずっと三年間眺め続けた笑顔なはずなのに醜い嫉妬が溢れだしそうになる。
色羽は常にあたしなんかよりキラキラして、全てが充実していた。
なんであたしなんかと仲良くしてくれているんだろうって思うことも何回もあったけど、たまたま馬があったんだって言い聞かせてた。
でも、ホントは内心バカにしてたの?
自分の引き立て役には丁度いいって思ってた?
どんどんどんどん負の感情が溢れかえる。
その言葉だけを吐き捨ててあたしは逃げるように駆け出した。
あぁ、言ってしまった。
自分でも全部わかってた。
これがただあたしの醜い嫉妬だってこと。
自分が1000%悪いことも。
色羽がそんな子じゃないってことも。
でも、気がついてたら口走ってしまって、吐き捨てた上に結局逃げてきてしまった……。
あたしが最後に見た色羽の表情が頭から離れない。
『死ね』と思わず言ってしまった時、色羽はこれまでに見たことない程の悲しい顔だった。
あんな表情にしてしまうことだって分かりきってたはずなのに……それなのにあたしはいってしまった。
自分が本当になさけなくなる。
夢を持ってそのために努力して、何倍も色羽の方が立派なのに……。
18年間、笑った日も怒った日も泣いた日も毎日あたし達のことを見守っていた琵琶湖の畔に座り込む。
揺れ一つない琵琶湖の水面を眺めてふと呟く。
相手が傷つくことは言ったらいけない。
相手を傷つけたらちゃんと謝る。
そんなこと小学生でも分かることじゃん。
小学生?いやそれ以前に習ったはずのことだ。
あたしはいつの間にこんな簡単なことさえも分からなくなってしまったのだろうか。
この世界に存在する意義がないのはあたしの方だ。
こんな人間だからこそ人を傷つけてしまうのかも知れない。
人間として立派な人は、正しい事を積み重ねてきたからこそ立派な人となれる。そこには、根本的な違いがあるのだ。
よく人は、"立派な大人"になりなさいと言う。
"立派な大人"ってなんなんだろう?
それを言ってる大人は"立派な大人"なんだろうか?
ある程度の年齢超えれば大人?そんな簡単なことじゃない気がする。
そんなことを考えていると脳裏に走馬灯のようにあるお話が浮かんだ────
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。