あの日の事を、今でも後悔している。
霞のかかる記憶の中で、やけにはっきりと主張を続ける感情。
――どうしてあの時君に、好きだって言えなかったんだろう。
自分の臆病さが心を引き止めるから、だから君に伝えられないまま君は――
君のいない世界は、俺にとって理不尽で残酷なものに戻ってしまった。
それなら、どうして生きていなければいけないのか。
――もうそろそろ、死ねるようになったかな。
突然視界の片隅に過ぎる、青白い光。見間違いかと目を擦っても、光は変わらずそこにあった。
ふわふわと遊ぶように漂いながら、俺の前を進んでいくそれに、
俺はどうしてか、ついて行こうと思った。
光は俺の問いかけに呼応するように点滅し、そのまま俺を誘いながら進んでいく。
それを追って歩いていたら、光はある建物に入った。マンションのような高い建物だった。
俺は光に続き、マンションの屋上へ向かった。
落下防止の柵を乗り越え、少し高くなった縁に足をかける。
今まで、何度これを繰り返してきただろう。
思い出す、少しの間の浮遊感。すぐに訪れる骨が砕ける痛み。
『死ぬ』時の痛みは、何度経験しても慣れるものではない。
やっぱり、死ぬのは怖い。少しだけ、膝が笑っている。
だけど、1歩踏み出すことで何かが変わる可能性が1%でもあるなら、そうする。
その結果、もう戻って来れないなら、それでも―――――
俺のそんな思いは、とある少女によって阻まれた。
美しい、少女だった。長い紺色の髪を頭の横で束ね、快活そうな雰囲気を醸し出している。
黒く大きな瞳には動揺が色濃くたたえられ、そんな表情をさせているのは俺だと遅れて悟った。
彼女は俺の所に駆け寄ると、俺の腕を掴んで屋上の縁から離れさせた。
気づけば俺の口から、そんな弱い声が漏れていた。"どうして"こんな場所にいるのか。"どうして"死なせてくれなかったのか。
俺の声を受けた彼女は、俺の状況も思いも全部置き去りにして返答した。
詳細な説明を要求したい。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。