前の話
一覧へ
次の話

第1話

『 本音 』
256
2019/05/11 22:54
☆0☆





自分の中にある本音。


それを、さらけ出すなんて…








簡単じゃないよ…


























あの人 以外には。








☆1☆



あの人…






通学の、結構…満員の電車。
いつも3両目の一番まえのドアから乗り込む私。


いつも座ってる あの人を、
毎日 見ながら通学してる。


イヤホンで、なに聞いてるんだろう?

どんな本、読んでるんだろう?

何の勉強してるんだろう?

スマホでゲーム…してるのかな?


もう…1年間も、
毎日、あの人を見ている。


でも、気付かれない…



解ってる。
私なんて可愛くもないし…

あの人とは、釣り合わない。


だから、見てるだけ。











解ってる…







☆2☆



季節は秋。
今年も文化祭の準備が始まった。

私はクジ引きで当たりを引き、クラスの実行委員長になってしまった。

普通、ハズレだろ!

と、怒るキャラでもないから、
たぶん誰もが、面白くない私に期待はしていなかった。


「委員長〜今年は何やるのぉ〜?」


それを皆んなで決めるんでしょ!?
私に聞かれても…


〇「何かやりたい事 ありますか?」


一応、聞いてみる。


「俺、メイドカフェ!」
「いいねぇ〜!」


男子って…しょうもな…


「委員長って、趣味とかあんの?」

〇「えッ?私?!!!」


クラスの男子が、いきなり聞いてきた。


今は関係ないでしょ?!
バカなの?!

なんて、言えるはずも無く…








☆3☆



〇「………す…スイーツ…作り…」



「へぇ〜〜すごいじゃん!!!」

「ならさ!スイーツのメイドカフェにしようよ!」



って、何でか知らないけど、男女ともに話しが盛り上がり…



『ニャンニャン スイーツ メイドカフェ♡』



に決まった…


「委員長、メニュー考えてね〜」
「委員長、買い出しリスト作ってね〜」
「委員長、メイドの衣装、調達してね〜」
「委員長、飾りつけのレイアウト書いてね〜」
「委員長、看板作ってね〜」


なんでもかんでも、私に押し付け、
誰も責任を持たずにいる。


バカにしてるとしか、思えなかった。


よし!
だったら、やってやろうじゃないの!!!

お前ら全員、見返してやるよ!!!








私の戦いが始まった。







☆4☆



朝も早く、帰りも遅く、家でも、毎日毎日、可能な限り働いた。


文化祭 一週間前。

帰りのホームに降りると、
ホームのベンチに座って、本を読んでいる…


あの人だ…


なんで?
なんで こんな所に?


私が立ち止まっている隙に、電車は発車し、降りてきた人達は、階段へと消えて行った。


ドキドキが意味しているものが、
イマイチ 分からなかった。

だって…
あの人とは、釣り合わないって、
解かってるハズだから。


読んでいた本から、目線を外し…

ひとり ポツンとしてる私を見つけた。


見られてる!!!


ビックリした顔の私に、近寄って来る!


えっ?どうしよ!どうしよッ!!!



?「生きてたんか?」



初めて聞く声…


?「朝、見かけんくなったから、もう会えへんと思うて…良かった(笑)」



初めて見る笑顔…



何もかも、メッチャかっこいい〜〜♡








☆5☆


?「それ、重ないか?持ってやろか?」

〇「えっ!や、あの、結構です!」

?「ほな、座って話さへん?」

〇「え、えぇーーッ?!!!」


そりゃあ、ビックリするでしょぉ?!!!
だって、だって!あの人だよ!!!

なんで私なんかと話すの?


?「嫌なら ええわ。」


そう言って、ベンチへ戻って、また本を読み始めた。


来られるのも困るけど、来ないのも嫌なんだよな…

なんなんだ、この思いは…


私は迷いながらも、その人が座った椅子からふたつ開けて座った。


?「素直やないなぁ。」

〇「…それ …私…ですか?」

?「…あ〜俺か(笑)」


話しても顔を見る事が出来ない。
会話も続かない…

そのうち、知らない男の人が、間に座ってしまった。


なんでぇーッ!
最悪!

えっ!!!

うつむいていると、その人は私の隣に移動してきた。


と、隣にいる!!!
ヤ、ヤバイ!!!
ドキドキがスゴくて、ドキドキがぁーッ!!!







☆6☆


淳「俺、淳太。君は?」

〇「わ、私は、〇〇…」

淳「〇〇かぁ…覚えた。」


名前…呼んでくれた…
こんな日がくるなんてぇ〜〜♡


淳太くんかぁ…


覚えた(笑)
たぶん 私、一生忘れない!!!



淳「なんで、朝の電車 変えたん?」

〇「え、あ、は、早く行ってて…」

淳「何時?」

〇「さ、最近は 6:32の各停に乗ってます。」

〇「早っ!!!」


あ〜〜夢みた〜い♡

なんて、思っていたのも束の間。


淳「じゃな!〇〇!」


と、次に来た準急に乗ってしまった。



淳太くんが乗り込んだ電車を見送り…



〇「…じゃぁね…淳太くん…」



ひとりポツンと呟いた。

木枯らし…もう冬が近いな。






☆7☆



今朝は寒いなぁ〜

私は冬用のコートを羽織った。
一応…マフラーも持って行こう。

私は、6:32の各停に乗り遅れない様に、
家を出た。

6:30 重たい荷物を担いで、ホームへの階段を登った。


〇「ふぅ、間に合った〜」


ふと、ベンチを見る。
昨日の事を思い出した。

もう、あんな事は無いんだろうな…

カッコ良かったな。
淳太くん。

最後だったなら、もっと色んな事、聞いとけば良かったなぁ〜

いつも イヤホンで、何 聞いてるの?
いつも どんな本 読んでるの?
いつも 何の勉強してるの?
いつも スマホでゲーム…してるの?

もう聞けない…
夢の時間は、終わったんだ。

私は気持ちを切り替えた。

その出来事を、淡い想い出に決めて、
6:32。
来た電車の3両目に乗り込んだ。








☆8☆


空いているから、座れるのが嬉しい。

が、


淳「〇〇 おはよっ。」


向かい側の席から聞こえた声。

座れるからだけじゃ無かった!!!

てか!てか!
そんなのより、何百倍も何千倍も何万倍も嬉しくて…


私、ヤバイ!!!


淳「早いからさ、校門までおくるよ。」

〇「えっ!そんな悪いです!」

淳「俺、こんな早く学校 着いても、やる事ないやん(笑)」


そう鼻で笑って、私の荷物を持ってくれた。


や、優し〜〜ッ!!!


淳「寒いな。じゃな!」

〇「あ、待って!コレ…使ってください。」

淳「でも、〇〇のが…」

〇「私はもう、校舎に入るから…大丈夫///」

淳「お、おん…ありがと///」


淳太くんは、私の黄色いマフラーを巻いて戻って行った。

私より、ずっと似合ってる(笑)


その日から文化祭の前日まで、
同じ電車で校門まで荷物を持って、
送ってくれた。








☆9☆


これってさぁ…
見込みあるって事なの?

そうだよね?
絶対 そうだよね?


今まで苦だった委員長の仕事も、
全て完璧に、しかも笑顔で こなした。

全部…
淳太くんのお陰だぁ〜!!!


私は完全に舞い上がっていた…


文化祭当日。
私は前日に、女子達と家庭科室で焼いたスポンジケーキを取りに行った。


「ねぇ、委員長!コレどうやって切るの?」


ケーキの切り方も、知らないなんて…
と、思いながらも、


「こうやって、対角線上に切れば大丈夫だよ!」


と、笑顔で答えた。

はぁ…使えない…

私はいつもの通り、声に出さずに悪口を言った。

それは、知らずに顔に出ていた。
でも、私は自分では気付かなかった。


ケーキを持って教室へ戻ると、


「委員長!猫耳とシッポ、どこ?」
「委員長!看板、何で取り付けるの?」
「委員長!ホイップがなかなか できない〜!」








☆10☆


ひとつ ひとつ全て、完璧に対応した。

私って凄くない?
自画自賛していた。

それから、一応 私も、
猫ちゃんの格好をして、お店に立った。

と、言っても、スイーツを盛りつけたりする裏方。

そして、忙しい…

なのに、


「委員長!氷が無い!!!」

〇「あ!分かった!持ってくるね!」


大きな寸胴に氷を取りに行った。
渋々。

氷を山盛りにした寸胴は、ハッキリ言って、重い…
コレって、男子の仕事じゃん!!!

重たい寸胴を持ち家庭科室を出て、階段を上がると、上の方から、聞いたことがある愛おしい声がした。

上の階の踊り場だ…

私は急いで駆け登った!


「ホントだぁ!西校の王子様じゃん!」


そう言いながら、私を追い抜かした女子達。


「淳太くん…ですよね?!」


どこから声を出しているのか?
女子達はキャーキャーピーピー言っていた。








☆11☆


淳「俺、人探しとるんやけど、〇〇って子知らへん?」

「あ〜同じクラスですけど…」

淳「えっ!そうなん?!」

「まさか…彼女じゃ無いですよねぇ?」

淳「え、ちゃうけど…なんで?」


この時点で、なぜだか辛かった。

普通に本当のことを話してるだけなのに…


「や、だってぇ〜釣り合わなさすぎだから〜」

淳「そうかぁ?」

「あの子ぉ〜ちょっとスイーツ作りが得意だからってぇ〜調子に乗っててぇ〜」

淳「そうなん?」


え、チョット待って…
調子になんて、乗ってないし…


「スグ、嫌そうな顔するしぃ〜」

淳「マジで?そりゃあ、ややなぁ…」




ガシャンッッッッ!!!



手が滑って寸胴を落とし、階段に氷をバラまいてしまった。








☆12☆


そうだよね…
私みたいな性格ブス…

淳太くんも嫌だよね…

大きな音が響き渡ったせいで、上の階から覗き込む、淳太くんと女子達。

他にもギャラリーがたくさん。


見世物か…私は…


涙を堪えながら、氷を拾った。
誰も手伝ってはくれない。


私なんか、




私なんか、
















………サヨナラ、淳太くん…







☆13☆


淳「お前、しゃ〜ないなぁ〜」

〇「えっ…淳太くん…」



一緒に拾ってくれてる…



淳「アホか、こんなたくさん。」

〇「ご、ごめんなさい。私、ひとりでやりますから…」

淳「はぁ?」


どう考えても、怒ってる声。


〇「ごめんなさい!全部やりますから!行ってください!」



もう…


構わないで…


淳太くんまで、見世物じゃん…


淳「ほんまアホやな。」

〇「…分かってます!」


少し強い口調が出た。

そんなに言わなくても、
私なんかダメな人間だって、分かってるよ…


〇「分かってますから…ほっといてください。」


この場から逃げ出したかった。
でも、大量の氷が、逃してはくれなかった。


淳「〇〇やない。」


えっ?


淳「アホは〇〇やなくて、お前のクラスのヤツや。」


えっ?何を言ってるの?








☆14☆


淳「こんな重いの、〇〇に持たせるなんて、考えられへんわ。」

〇「え…」

淳「俺、持ってやるから、新しいの取りに行こか!?」

〇「え、でも…」



淳太くん…なんで?



「待って待って〜淳太くんが手伝う事じゃないでしょぉ〜」


そうだよね、女子達の言う通りだよ。


〇「大丈夫です。私、ひとりで行きますから。ありがとうございます。」


私は少し頭を下げて、重たい寸胴を持ち上げようとした。


淳「待って!」


淳太くんは、私の腕を掴んだ。


「もぉ〜淳太くん、〇〇が大丈夫って言うんだから、行かなくてイイんだよぉ〜」

淳「なに言うとんねん!さっきから!」


淳太くんが強い口調で女子達に言った。
女子達は、意外な言葉にビックリしていた。


淳「俺、知っとるで!〇〇が、お前らの分まで全部、仕事させられてた事。」

「そ、それは…自主的に…」

淳「ホンマにそう思うてんなら、お前らクズやな。」



淳太くん…
私の為に…








☆15☆



淳「俺、〇〇のそういうトコに、惚れたんや。」



え…マジで…

堪えていた涙が、溢れ出した。


淳太くんは「行こか。」と、寸胴を持って歩き出した。

私は涙を拭い、後を付いて行った。



〇「あ、あのぉ…」

淳「ゴメン。〇〇の立場も考えんと、つい…」

〇「や、そうじゃなくて…」

淳「気にせんでええよ、あんなヤツら。」

〇「ち、違うんです。」

淳「違うって…なにが?」

〇「家庭科室…あっちです…」

淳「へぇ///…ごめんごめん!」

〇「ぷっ!淳太くんって、面白い!」



私は笑っていた。



淳「やっぱ…〇〇の笑顔、素敵やな(笑)」



小っ恥ずかしい事もサラッと言える…
ホント、王子様みたい(笑)


私達は、教室へ戻った。
淳太くんは、重い寸胴を運んでくれた。









☆16☆



淳「〇〇 凄いやん!!!」



私が作った装飾を、人目もはばからず褒めてくれた。


「〇〇には才能があるんやなぁ〜」とか、
「俺も〇〇と同じクラスになりたいなぁ〜」とか、

淳太くんにスイーツと紅茶を出した。


淳「〇〇、一緒に座って!」

〇「え…あ、うん。」


私は窓の外を眺めて座る席の、隣に座った。

窓から見える景色は、かなりの遠くまで見える。
遠〜くの山々の山頂が、薄っすら白くなっていた。


淳「なぁ、〇〇?」

〇「な、なんですか?」

淳「これからは、辛かったら必ず俺に言ってくれへん?」

〇「どうして?」

淳「隠さへんって、約束して?」



なんでか分からなかったが…

とても不思議で…

その言葉はまるで、プロポーズの様に聞こえ…




〇「…………はい。」




気付くと返事をしていた。








☆17☆



淳「ええこや。」



そう言うと、猫耳を避けて、頭をナデナデしてくれた。


〇「ちょ、チョットぉ…///」


皆んなが見ていて、恥ずかしかった。


淳「俺の彼女で、ええな?」

〇「ぅへぇっ?!!!」

淳「ちゃうやろ。『はい 』やろ。」

〇「あ、はいッ!!!」




あ!返事しちゃった…










・・・・・(笑)












淳太くんになら、本音が言える…














「好きです…」


☆fin.☆

プリ小説オーディオドラマ