第14話

偽証
87
2023/08/22 12:00

 なかなか複雑な状況だが、私と響くんの関係が今までで1番気まづいことになっているのは確かだろう。

 私は響くんに陽のことをいっそ忘れて欲しいけど、それは響くんの望むことじゃないから。

「いきなりなんですか」

「なんでもない」

 不信感もまたひとつの興味だ。だから今はこれでいい。

 不気味な笑みも、わざとらしいすっとぼけも、君のためならなんでもやるから、だから…

「そうですか」

 その空っぽな目に光を灯したいんだ。

 ピコンと私のスマホが音を鳴らす。

「天音姉妹から連絡返ってきたよ、明日なら空いてるって」

「…!運がいいですね」

「2人とも暇なのも珍しいね」

 店に入る前に姉の方に連絡をしたのだが、案外すぐに返事が帰ってきてくれた。ありがたいことに順調に話が進んでいく。

「なら今日はもうすることない感じですか?」

「そうだね…いい感じに話も進んでるし」

 あ、とわたしが声を漏らすと、響くんが反応する。

「理音さん?どうしました?」

「それだよ!」

「……はい?」

「その超お堅い敬語とさん付け!どうにかなんないの!?」

「どうにかと言われましても、どうしたらいいんです?」

「同じクラスの友達に話しかける感覚じゃ無理なの?」

「…それでいいならまぁ、そうしますけど…」

 ばっと身を乗り出して決まりだね、と笑ってみる。響くんは突然何を言うのかと不思議そうにしていたけれど、いつもはあまり顔に変化がないから、不思議そうな顔が何故かおかしくて更に笑ってしまう。

「んじゃきまり!改めてよろしくね、響くん」

「うん、宜しく。……理音?」

「……わ、割となんか……くっそぉ……」

 さすがイケメン、名前呼び捨てはなんというか、ちゃんとかっこいいのはやめて欲しい。ほんと声も良いんだから。ダメだよ全く。
 遺伝子が優秀な東城家はみんなそうだ。

「あ〜、呼び捨てで良かっ、た?」

「うん、いいよ…」

「そう」

 敬語が無くなると更に口数減るなぁ…口を開いてもそんなに長い言葉を話すわけじゃないし。

 ただ、私の前では少なくとも敬語ばっかりだったから、すごく新鮮な気持ちだ。

 いつの間にか届いて、響くんが受け取ってくれていた私のオムライスと響くんのパスタを、ぼぅっと眺めていると響くんが突然視界に入ってくる。

「わっ」

「理音?どうした?」

「あ、いやぁ…響くんのタメ口になれないなって…」

「変えた方がいい?」

「いやいや!そのうち慣れるだろうし大丈夫だよ…けど、そんな話し方だっけ?」

「…わからない。そもそも理音以外と話す機会が減ったから、敬語以外で喋ったのも久しぶり」

「急に寂しいこと言うじゃん…」

 家族ともあんまり話してないんだろうな。響くんの声色が若干寂しそうにしていたのを私は聞き逃さなかった。
 響くんのご両親方は今どうされているのだろうか。スプーンとフォークで綺麗にパスタを食べる響くんの姿をぼうっと眺めながらそんなことを考える。

 きっと響くんは大切にされてるんだろうな。

 それは今も昔も変わらない。

「響くんはこれが終わったら、どうする?」

「決まってる」

 丁寧に、静かにスプーンとフォークを置くと私の目を見て言った。

「どうしようもないなら何もしない。けどもし、姉ちゃんを奪った誰かが居るなら…」

 どこまでも暗く、どこまでも深く。
 負った傷は癒えず。

「僕は、そいつから大事なもの全部奪う」

 人は簡単に変わってしまう。

 わたしも同じなのだろうけれど。

「付き合うよ、それに。」

 君がしたいこと、全部手伝ってあげる。

「響くんの気が済むまで。」


な つ や す み が お わ っ た

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