第13話

偽計
110
2023/08/11 00:00
 『初めて来たお店だけど、いい感じの雰囲気だね』と、私が告げると、目を見開いて信じられないといった様子で響くんが私を見つめる。

「初めてって」

「私この辺りはあんまり来なくてさ。でもやっぱり発展してる地域だよね〜色んなものがある」

「…忘れたんですか?」

「ん?何が?」

「っ!ここ来たことありますよ、だって」

「あ、響くんは来たことあるんだ!へぇ〜確かに美味しそうなもの多いもんね!私はオムライスにしようかな!これ最近流行りのレトロ感ってやつ?美味しそうだなって思っ」

「理音さん」

 始まった。後には引けない。

 響くんはきっと忘れられないだろうから、これは初めから負け戦だ。

「…どうしたの?響くん?」

「わざとですか」

 鋭い視線が私の心を責め立てていく。憎しみさえ籠った睨みは、響くんの心のほぼ全てが未だ陽に染っていることの証明にも思えてくる。

 無くなったものは、簡単に忘れることは出来なくて。失ってから気付くものがあるのと同時に、無くなったことで得た呪いがきっとどこかに隠れていて。

 わたしじゃ、君を救えないのかもしれない

「わざと?いきなり、どうしたのさ」

「忘れたとは言わせない」

 こんな店に1度来ただけの記憶なんか、とっくの昔に忘れてたっていいはずのに。
 私も覚えていたってことは、私も呪いにかかっているのかもしれないなぁなんて。きっと君のはそんなものじゃないんだろうけれど。

 あぁ、呪いだ。亡霊が死ぬ前にかけたまじないが、呪いになって憑いたんだ。

「忘れた?何を?」

「理音さんっ!?」

 ガタンと椅子を鳴らし声を荒らげながら立ち上がった。周りの目も気にしない様子で私を睨みつける。実際感じたことがあるわけではないけれど、これを殺気というのだろうか、底知れぬ圧力を感じた。

 正直少しだけ怖いと思ったけれど、怖気付くわけにはいかない。力強く立ち上がって、ゆっくり、ゆっくり、言い聞かせるように言葉にした。

「…響くん、私は絶対に今日初めてここに来た」

「そんなわけない」

「どうして?それは、響くんの勘違いかもしれない」

「…僕が間違えたと?」

「そこまで大袈裟じゃないけど。この店は、そんなに記憶に残るほど美味しかったの?味は覚えてる?交わした会話は?」

「何が言いたいんですか」

「ちょっと聞きたかっただけだよ。いやぁそれよりさ…」

 顔を響くんに近づけて囁くように、甘く、深く、優しく声をかける。
 うーん、あの世で陽に叱られそうだ。

「ここ、初めて2人で来たお店になったね」

「…いきなり、どうしたんですか」

 無理やり、雰囲気で押し込む。悟られないように、バレないように。

「ちゃんと覚えててね?響くんは覚えてるみたいだからさ」

「…はぁ」

 毒気は上手く抜けたようで、脱力したように響くんは椅子に座る。

「よくわかんないですけど、やっぱり覚えてますよね?」

「さぁね。私にはよくわかんないや」

「……そうですか」

 結局私は陽の親友であって、それ以上でもそれ以下でもないけれど、響くんの気持ちもすこしはわかる。

 忘れたくて、でも絶対忘れたくなくて、大切な人がいない世界は当然のように回って、夜はしっかり眠れて、ご飯はちゃんと食べて、まるではじめからそこにはなかったかのように忘れられていく…

 過去に囚われてしまう。

 救われて欲しかった。忘れて欲しかった。

 でも響くんはきっと空白を埋められないだろうから。私が代わりになってあげたかった。

 未来を見て、私ができることは上書きすることぐらいだから。

 少しずつ、一緒に前を向いていこうよ。

 明るい未来まで、案内してあげるからさ。

 だから、勘違いして欲しいんだ。

「響くん」

 私に、騙されて欲しい

「緊張しちゃうね」

 私を、好きになって欲しい
突然ですが宣伝をさせていただきます
この小説を愛読頂いております空閑さつき様の作品です。

実は文ストファンなので楽しく読ませて頂きました。

鏡花ちゃんの双子の妹がもし天人五衰に居たら、という設定で進んでいく夢小説となっております。

物語の展開がテンポよくに進んでいくので、かなり読みやすくなっているなと思いました、かなりおすすめです。

あと夢主さんのキャラがかわいい。とても私の趣味にあっています。…私の私情ですが。

文ストファンの方は1度目を通してみてはいかがでしょうか?

それでは今日はここまでとさせていただきます。
また次回お会いしましょう!

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