第19話

例えば、雨に濡れた大地が足跡を残すように
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2023/11/04 00:00

 ざぁざぁと、バケツをひっくり返したような雨が煩く響く。

 近頃の名ばかりの梅雨とは違って、今日の雨は随分と激しいものだった。ぬかるんだ地面とはねる泥が、遠慮なくローファーを汚していく。

 夏前なのに冬服を着ているからだろうか。随分と身体が暑くて、どれだけ服が濡れても気にならなかった。

 黒い傘を低く持って顔を意図的に隠す。いや、視界を遮りたかっただけかもしれない。

 傘から落ちて、地面にぶつかっていく水滴をただ眺めていた。

「次は理音ちゃんの番だよ…理音ちゃん?」

「え、? あぁ、はい。わかりました…」

 私の返事を聞いて、どこかで見たことのある様な中年の女は哀れんだように私を見つめる。

 1歩ずつ前に出れば、コソコソと人の声が聞こえてくる。

 _可哀想に。親友を亡くしたんですって

 _まだ高校生なのにねぇ…

 墓石に刻まれた名前に未だ実感が湧かない。

「なんで……」

『なんでだと思う?』

 はっとして声の元を見る。墓石に肘を置いて頬杖をする声の主。

「ひな」

 にやりとわらってそいつはくちをうごかした。

『まぁ、たのんだよ』




 雨音の喧騒が耳にこびりついて離れない。


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