第17話

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2023/10/05 12:00
「まさかこんな早く解けちゃうとは思わなかったなぁ」

 捨てなくてよかった〜と双葉が安堵の表情で笑う。

「手紙はともかく、昔のアカウントなんて、削除しててもおかしくなかったと思うんですが。よく残ってましたね」

「さすがだね!昔の私ぐっじょぶ!」

 ……本当に、そんな都合よくいくだろうか?

 私の記憶では、双葉がスマホを変えてそれと同時にアカウントが変わったのは1年は前になるはずだ。

 さっと自分のスマホの履歴をチェック。双葉との最も古いメッセージのやり取りは…ちょうど1年前。高校生になって初めての7月だ。
 双葉の旧アカウントとのやり取りもまだ残っていた。こちらはさっき確認した履歴の1週間前の日付。この間に双葉はスマホを変えたってことだ。

 1年、1年だ。使わないスマホの料金を1年間払い続けるなんてこと、普通ありえるだろうか?

 陽は、双葉の古いスマホがまだ使えることを確信してメッセージを送信した。これは間違いないと考えていいだろう。陽は、確実に、こんなところで解けなくなる問題は作らない。あれでも一端の謎解き職人だ。プライドくらいあるだろう。

 いま思い返してみれば…双葉の古いスマホを取ってくるスピードも不自然だった。1年間使っていなかったのに、そんなあっさり見つかるか?…これはさすがに疑いすぎたか。

「……理音?どしたの」

「え、あぁ…いやなんでも……」

 若葉が目ざとく私を見つめてくる。そっか、と受け取りにくい反応を返したかと思えば、何事も無かったかのように双葉との会話に戻る。

 響くんはというと、私と同じことを思ったんだろう。若干眉間に皺を寄せて難しそうな顔をしている。私の視線に気付くと、厳しい顔のままこくりと1つ頷いた。

 双葉と若葉には、これ以上陽のことには何も触れず、自分の手元に収まったカップの飲み物だけ飲み干して、姉妹宅を後にした。



「やっぱりお二人の態度、気になった。」

「陽は、1人で計画していたわけじゃないのかもね…まぁそんなことがわかったところでなんにもならないんだけど」

 ……そこまで話したところで沈黙が続く。姉妹の家を出て帰り道。互いの家が近いから道のりはほとんど同じだ。話すことはないけれど、不思議と居心地の悪さは感じなかった。

 分かれ道にたどり着く。ここからは互いに別の道だ。響くんにあいさつをしようと視線を動かして、驚いた。いままでの帰り道、響くんの方を1度も向かなかったことに気がついたのだ。

「理音さん、話があるんです」

 敬語が戻っている。真っ直ぐ私を見つめる視線に、いたたまれなくなって思わず響くんを視界から追い出してしまった。

「どうしたの?改まって」

「…昨日、姉ちゃんの仏壇が家に来ました。時間があったら明日、来てやって欲しいんです。」

 響くんがそう言い終わると同時に、刺すような視線から開放されたことを悟った。落ち着いて響くんの目に視線を戻す。

「わかった。ありがとうね、教えてくれて。明日のお昼くらいに行くよ」

「ありがとうございます。では、これで。また明日」

「うん、また明日」

 何年か前の陽と同じ道を同じように歩いていく響くんを、同じように変わらない分かれ道で見送る。
 小学生の私たちは、今日と似たような夕暮れになるまで走り回って遊んでいた。
 若干の引け目と寂寞が、胸の中に渦巻いて影をさして残った。

 今日の夕日は、眩しい。

またランキング上がってました!ありがとうございます!

今回でまた一段落です。引き続きよろしくお願いします!

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