第11話

偽善
121
2023/08/04 00:00


「久しぶりだね。元気に…は、してないか。東城さんの訃報は聞いたよ、本当に惜しい人を亡くした…」

 目にうっすらと涙すら浮かべているこの30代半ばの男性、林先生は私と陽、それから響くんも担任を持ってもらったことがあるらしい、私たちの恩師だ。

 公正公平、児童に真っ直ぐ向き合い、正しく導く姿勢が親御さんに評価され、また優しく面白い性格が児童にもウケ、人当たりもよく他教師からも評判が良い、色んな人から高い評価を得ているこの学校でも一二を争う人気の先生。私達も当然この先生のことを信頼している。

「お久しぶりです、林先生。」

「お久しぶりです。5年ぶりですが、お変わりないようで何よりです」

「君たちは随分と変わったね…大きくなって、そんな立派な言葉遣いで…いやぁ子供の成長は凄いね…まだ君たちの担任が僕だった頃は、敬語なんかほぼ使えてなかったのに…見た目もすっかり変わったね?」

「そうですか?」

「うん、大人びたね」

 自分の教え子の成長を見られたのが嬉しいのだろうか?随分と饒舌で、でもどこか寂しそうに笑う。

「子供たちの成長した姿を見ると、いつも嬉しい反面どこか置いていかれた気になってしまうね」

 すると先生は不意に気になることを口にした。

「東城さん、2ヶ月前くらいにここに来たけれど、2人とも彼女から話に聞いてた通りの成長だね」

「!? 姉ちゃん、ここに来てたんですか!?」

「うん。来たけれど…どうかした?」

「実は、その陽のことでお話に来たんです」

 私たちの真剣な眼差しに、先生は椅子に座る位置を直してから再び私達と向き合う。

「どうかしたのかい?」

「実は訳あって陽の小学校に関する数字1桁を探してまして。」

「大人の出る幕じゃなさそうだから、理由は聞かないでおくよ…」

「ありがとうございます。それで、今日は小学校を訊ねたのですが…」

 すると突然ガラガラ、と教室の扉が開く。
 とことこと私たちの方へ近づいてくると、この学校の児童…つまり私たちの後輩だということがわかる。夏休みだが何かと学校開放するイベントが多いため、児童が教室を訪ねてきたのだろうということは簡単にわかった。

「先生!何してるの?」

 響くんは見覚えのある子のようで、驚いたようにその子を見つめている。

「あ…光の友達の…」

 光、という言葉を聞いて振り返ったその子は、先程まで私たちに目もくれず先生の方を向いていたのに、パァっと顔を明るくして響くんに抱きつく。

「光のにーちゃんだっ!」

「わっ…えっと、君は確か…」

「みつる!だよ!」

 自らをみつるだと答えた少年は響くんのことをどこかに連れていきたいらしく、一緒に遊ぼ!と響くんを連れていこうとする。

「あ、ちょっと……!」

「東城くん、少しだけ遊んできてあげてくれないかい?今日は学校に友達が誰もいないみたいでね…暇してたんだ」

「まぁ…そういうことなら…」

「にーちゃんっ!いこ!」

「すみません、すぐ戻るんで!」

「行ってらっしゃい〜」

 小さい子と一緒にいれば、少しでも気分転換になったりしないかなと思ってはみたものの、そういえば光くんが家にいるから効果はあまりないか…とも思う。

「リフレッシュになるといいけどね」

 先生も同じことを思っていたようだ。最近の響くんの変わり様は、久しぶりに会った先生でもわかるものだったんだろう。

「やっぱり酷いですよね」

「東城くんの様子のことを言っているなら…君の考え方では、確かに酷いかもしれないね」

「私の考え方?」

「うん。だから君はきっと東城くんのことがとても心配なんだろうけれど…僕が思うに、君はもっと君自身の心配をするべきだよ?」

「私ですか…でも私より」

「その考え方がダメなんだ。僕からしてみれば、君も東城くんも等しく死に触れた子供。東城くんだって、自分の心は自分で守れるよ」

「でも先生も見たでしょう?私と響くんは違う…私は、陽と…」

「なるほど。僕の知らないものを知ってるみたいだけど、僕の意見は変わらないよ。君のすべきことは東城くんを守ることじゃなくて、自分の身と周りを守ることだ。それが結果、東城くんを守ることにも繋がる。」

「……そうでしょうか」

「君も君で限界なんだろう、あまり背負い込むな。君が最善だと思っていても、こういう時はどう転ぶかわからない。」

「分かりました」

 スっと私の目を見つめる先生はどこまで見通しているのか、何を知っているのか、何も分からないけれど、きっと聞くべきではなくて。

 自分で、知るべきなんだ。

「気をつけて」

「はい」

「東城くんの変化は、きっと自己防衛の一種だ。それが正しい防衛かはさておき…きっと君が心配する程じゃないよ。まぁ、この先の本題については東城が帰ってきてからにしようか」

「そうですね、きっと待たせる訳には〜なんて言ってすぐ帰ってくるでしょうし…」

 そう言って窓から見た響くんの姿は、相変わらず動きが少なく感情の動きがわかりにくかったけれど、でもわたしが思っているより楽しそうに見えた。

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