第23話

⑵. ②救世主🚩
634
2020/12/27 13:57
だれかの…こえがきこえる…
だれ……?
だれかそこに…─────────
坂下 桜
坂下 桜
ん、んぅ………
百目
おや、起きたみたいだぞ
見覚えのある天井だ。
しかも、最近見たばかり。
そして、同じ匂いの布団。
これもまた、最近。
唐松  カラマツ
唐松 カラマツ
桜っ、大丈夫か…?
坂下 桜
坂下 桜
か、らまつ…さん?
私の顔を心配そうに覗き込む唐松さん。
坂下 桜
坂下 桜
どうしたんですか…?
唐松  カラマツ
唐松 カラマツ
どうしたって…覚えてないのか…?
坂下 桜
坂下 桜
何を………………
あれ、わたし、


ここを出て、それから、具合が悪くなって、




それで───────
坂下 桜
坂下 桜
うっ…
湧き上がってくる胃液を慌てて飲み込んだ。
唐松  カラマツ
唐松 カラマツ
す、すまない…思い出させたな……。
大丈夫か?
私は口を抑えながらこくこくと首を縦に振る。
私…そうだ、、
…………やっぱりあの人悪い人だったんだ、
唐松  カラマツ
唐松 カラマツ
………………辛いとこすまないんだが、急ぎで話、いいか?
唐松さんは優しい顔をして、私の着崩れた着物をぴっちりと直してくれた。
あの時、制服が無かった気がするから誰かが着せてくれたのかな。
坂下 桜
坂下 桜
はい、大丈夫です
ぼーっとしていた私は、まだその誰かを考えることも、お礼を言うことも考えられていなかった。
唐松  カラマツ
唐松 カラマツ
また辛いことを思い出させるようで悪いんだが………その…………………
唐松さんは本当に申し訳なさそうな顔をして、その先の言葉を躊躇っていた。
坂下 桜
坂下 桜
唐松さん
唐松  カラマツ
唐松 カラマツ
ッ…!
俯き、唇がちぎれるんじゃないかというくらい歯に力を入れる唐松さんの名前を呼んだ。
唐松さんはハッとして顔を上げ、眉尻を下げている。
こんなに弱々しい唐松さんの顔、初めて見た。
坂下 桜
坂下 桜
私ならもう大丈夫です。……私はよく分からないけど、きっと大事なことなんですよね…?
唐松  カラマツ
唐松 カラマツ
あ、あぁ…だがしかし……─────
あぁ、こんな顔をするこの人が人間嫌い?
たかが一人の人間の心情を察して、こんなにも苦しそうな顔をするこの人が…?
坂下 桜
坂下 桜
唐松さん
坂下 桜
坂下 桜
唐松さん、私のこと信じてください。
嘘だ。
こんなにも人の為になれる唐松さんが人間嫌いなわけが無い。
─────きっと、その逆だ。








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唐松  カラマツ
唐松 カラマツ
お前達は先に行っていてくれ、俺は少し用がある。後から追い掛ける。
跪き、頭を垂れる二人はさっきまでの取り乱した様子とは全く別人のようだった。
河童
承知致しました。
轆轤首
魔王様には、しっかりと伝えさせていただきます。
唐松  カラマツ
唐松 カラマツ
あぁ、頼んだ。
二人には特に信頼を置いていた唐松は、すっかり安心しきっていた。
消えた二人を見送った後、会議室には唐松ただ一人きりのように思えた。
唐松  カラマツ
唐松 カラマツ
………………まだ何かあるのか。
その時、再び会議室中央に影が現れた。
遅松  オソマツ
遅松 オソマツ
…………桜だ
唐松  カラマツ
唐松 カラマツ
チッ…………クソッ……
派手に舌打ちをして、明らかに苛立っている様子の唐松。
苛立っているのは遅松も同様であった。
遅松  オソマツ
遅松 オソマツ
『…人間が一人、被害に遭ってる。』
唐松はつい先程の、遅松の言葉を思い出した。
遅松の表情で、唐松と丁呂松は察したのだ。
唐松  カラマツ
唐松 カラマツ
怪我は?
遅松  オソマツ
遅松 オソマツ
いんや、今は大丈夫。崖から落ちて百目に手当してもらったらしい
唐松  カラマツ
唐松 カラマツ
そうか…
唐松はほっと胸を撫で下ろした。
遅松  オソマツ
遅松 オソマツ
つか、そっちじゃないんだよね。問題は。
唐松  カラマツ
唐松 カラマツ
…?
遅松  オソマツ
遅松 オソマツ
…水商売の鼠男に捕まってたんだよね
唐松  カラマツ
唐松 カラマツ
……は?
通常、人間が妖魔門から百目の手によって送り出される際、違法な行為に人間が巻き込まれることを避ける為、百目お手製の妖力の籠った頭巾を被り妖井戸へ向かわせるきまりになっている。
その頭巾を被った人間が、違法行為に巻き込まれる事は滅多に無い。
唐松  カラマツ
唐松 カラマツ
頭巾は…?百目から頭巾は貰わなかったのか…?
唐松はまだ驚きを隠せていなかった。
こんな事、頭巾配布が始まってから無かったのだ。
遅松  オソマツ
遅松 オソマツ
…もらっ、てたよ
返事に渋る遅松。
唐松  カラマツ
唐松 カラマツ
………遅松貴様…
遅松  オソマツ
遅松 オソマツ
だ、だぁーって!そんな、副作用とか?あるの、知らなかったしぃ?
遅松は急に態度を翻し、唇を尖らせいい訳を始める。
唐松  カラマツ
唐松 カラマツ
副作用…?
遅松  オソマツ
遅松 オソマツ
え゛。お前知ってたんじゃないの…?
遅松の顔からサーッと血の気が無くなってゆく。
唐松  カラマツ
唐松 カラマツ
俺は唯、お前に何かやましい事があるんじゃないかと思っただけだが…?
唐松の顔にはピキピキと青黒い血管が浮き出ている。
唐松  カラマツ
唐松 カラマツ
詳しく説明しろ。説教はその後だ。





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坂下 桜
坂下 桜
───────それで、崖から転げ落ちてここに…
森に入ってから牛鬼に捕まり、一部始終を唐松さんに話した。
唐松  カラマツ
唐松 カラマツ
成程な…。金属音か…
あの時、牛鬼に食べられそうになった時、突如聴こえた金属音と同時に牛鬼はダメージを受けていたようだった。
百目
援護か?
唐松  カラマツ
唐松 カラマツ
いや、援護なら桜の身を優先するはず…
百目
…………牛鬼の封印を解いた者、かもしれないな
百目さんが重々しく口を開く。
坂下 桜
坂下 桜
だ、誰かが解いたって…!?意図的に危険な妖怪を!?どうして…!
牛鬼は大犯罪を犯した妖界、そんな危険な妖怪を自ら解放するなんて…
唐松  カラマツ
唐松 カラマツ
…俺達の行為をよく思わない連中がいるんだ
唐松さんは私の横に腰掛け、足元に視線をやりながら小さく口を開いた。
坂下 桜
坂下 桜
行為、って…法律作ったり、規制を張ったり…?
唐松  カラマツ
唐松 カラマツ
あぁ。今までそんな縛りの無かった妖界は、そんなヤツらの自由の場だった
百目
妖力の無い弱者は立場を失い、差別の対象に成り下がり奴隷としても扱われていた。
坂下 桜
坂下 桜
そんな……
日本史で習った、昔の人間みたいだと思った。
今も差別や偏見はあるけれど。
百目
唐松達はそんな弱者と呼ばれる者達を救った。多くの者達から救世主と崇められた。
百目さんは少し微笑んで、誇らしげに語った。
やっぱり唐松さんは凄い。そんなこと、並大抵の努力じゃ叶わない。
唐松  カラマツ
唐松 カラマツ
だがどうだ、今までその者達の上に立っていた連中は。胸糞悪いに決まっている
坂下 桜
坂下 桜
その人達が…?
唐松  カラマツ
唐松 カラマツ
多分な。一概にそうとは決めきれん
坂下 桜
坂下 桜
……………
なんだか、妖魔界という世界も大変な問題を抱えてるらしい。
私はまだ、何も知らない。
唐松  カラマツ
唐松 カラマツ
すまない、急いでいるんだった。早急に魔界に行かなければならない
百目
井矢見イヤミ
唐松  カラマツ
唐松 カラマツ
あぁ、
坂下 桜
坂下 桜
嫌味…?
嫌味?唐松さんそんなこと言ったかな…?
唐松  カラマツ
唐松 カラマツ
ハハッ   嫌味じゃない、井矢見だ。魔界の魔王なんだよ。
牛鬼の解放は魔界にとっても大問題だからな。報告に行かなければならないんだ
唐松さん、また笑った。今日はよく笑ってくれるなぁ。
唐松さんが笑ってくれると、私も自然と笑顔になっちゃう。
唐松  カラマツ
唐松 カラマツ
ありがとう桜。すまなかったな…その、助けに行けなくて…………
唐松さんは立ち上がって、座る私の前に跪いた。
坂下 桜
坂下 桜
いいんだよ、唐松さん。元々私が蒔いた種だもん。私が森に入らなければ…
唐松  カラマツ
唐松 カラマツ
………いや。………あぁ、、それじゃあまた今度な
坂下 桜
坂下 桜
?   はいっ!頑張ってください、唐松さん!
唐松さんは何か言いたげに口を開いたが、直ぐに首を横に振った。
唐松  カラマツ
唐松 カラマツ
あぁ…ありがとう
唐松さんはそう微笑むと、大きなゴツゴツとした手でわしゃわしゃと私の頭を優しく撫で、その場から消え去った。

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