百目さんに見届けられ妖魔門を出ると、そこはまるで江戸時代の城下町のような風景が広がっていた。
たくさんの妖怪が、歩く景色に思わず目を奪われた。
私の目には、とても素敵に映る世界だった。
私は慌てて百目さんから貰った猫耳ポンチョを装着する。
首のところで紐を結んで装着完了。
私は深呼吸をして一歩を踏み出した。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
妖魔門の入口─────崖の先の空間に繋がる扉を開けた先には、彼がいた。
妖魔界三大妖怪酒呑童子、松野遅松。
百目と遅松達6人兄弟は、小さい頃から一緒に育った仲であったが、大人になってからは会う機会もばったり減っていた。
遅松はいつも、妖魔門の出口である妖界口から入ってくる。
だが今日は、崖側(先程桜が入ってきた)の入口から入ってきた。
予想外の返事に目を丸くする遅松。
言わずとも察した百目。
遅松は舌を出してウィンクして見せた。
別に可愛くはない。
どんどん自分の予想が外れていくことに、眉根を寄せる遅松。
詰寄る百目に、面倒くさそうに手をヒラヒラと振る遅松。
頭をポリポリと掻き、欠伸をする遅松には完全にやる気は無かった。
眉を顰め、遅松をキッと睨む。
遅松の返答に、目を丸くし声を荒らげる百目。
中々取り乱すことの無い百目に驚き、遅松は萎縮する。
百目は片手で顔を覆い溜息を着く。
焦り出す遅松。
百目はまた溜息を着くと、さっきまで桜が寝ていた布団のすぐ横の棚を漁り始める。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
苦しい、くるしい、きもちわるい、きもちわるい、、
妖魔門から歩いて10分程経った頃、私は民家と民家の間の路地裏でしゃがみこんでいた。
急に目眩や頭痛が自身を襲ったのだ。
症状はどんどん悪化する一方で、もうろくに立つこともままならない。
今日は厄日だ。みんなに会えないわ、化け物に襲われるわ、山から転げ落ちるわ………
そう言えば、山から転げ落ちたのに傷一つ無いのは………
身体が熱くなってきた。熱でもあるのだろうか。
呼吸も苦しい。肺が小さくなったみたいだ。
涙がポロポロと溢れてくる。あぁ、今日は泣いてばっかりだ。
問い掛けが自分に向けられたものだと気付くのに少し、時間がかかった。
ゆっくりと振り返ると、そこには鼠の姿をしたような妖怪がいた。
涙で前が見えなくて、私は伸びてきた手に気付かなかった。
目の前の妖怪は、私のフードを乱暴に剥ぎ取ったのだ。
感じ取った。この妖怪には関わってはいけないと。
段々と、妖怪の声も遠くなってきた。
逃げなければと、頭では思うものの身体が全く言うことを聞かない。
その声を最後に、私は意識を手放した。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
続く……………。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。