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130
2021/05/18

第2話

ディストーション・プリンセス
PM 11:30

なんとか終電前には帰る事ができる。

家で可愛い可愛い大我が待ってるんだから、早く帰ってやらないと。

そんな思いが、ホームまでの足を早める。

〇〇
〇〇
『今から帰るよ』
大我
大我
『ほんと!?やったー!』
ぽちぽちとメッセージを打ちながら、「まだ起きてたのか」と心の中で呟く。
大我
大我
『ご飯もう食べた?』
〇〇
〇〇
『まだ』
大我
大我
『じゃ、適当になんか作って待ってるね』
最近料理を始めたらしい。特にオムライスは絶品だ。

本人は、お米にもっと注意を払って欲しいらしいけど。

味わってる暇がないくらい、大我の作ってくれたご飯は美味しい。

ふと窓を見ると、自然に口角が上がってしまっていたことに気づく。いけないいけない。
車掌
車掌
「次は〜△△〜次は〜△△〜」
アナウンスが流れたのを確認し、のろのろとドアの前に立つ。立ち上がって動き回る気力も、実を言えば殆ど残っていない。

今、仮に価格ドットコムでどこでもドアのページを見せられたら、本物かどうか確認もせずにポチってしまうだろう。

それぐらい疲れているのだ。

それでも私は家に帰る。あの笑顔を見る為に。

駅からは徒歩で5分もかからない。しかし、最近はその5分が1時間とも思ってしまうほど長く感じる。

それほど疲れているのか、道が伸びたのか。

結局のところ、私にはよくわからない。

それでも何とか重い足を動かし、何とか家の前まで辿り着く。ふと上を見上げると、そこには愛しい彼の姿が。
大我
大我
「〇〇ちゃん!おかえりぃっ!今そっち降りるからちょっと待っててッ」
そう言うと、ダダダダッと言う音を立てて急いで降りてきた。
大我
大我
「お帰りなさいっ!」
そう叫ぶと、走って…というかほぼ突進して抱きついてくる。ちょいちょい、まだ外ですよ。
〇〇
〇〇
「ちょ、大我、離して」
大我
大我
「やだっ」
〇〇
〇〇
「んもぉ…」
ひっつき虫みたいな174cmを何とか引き剥がし、玄関前まで辿り着く。

鍵どこやったっけ。鞄の奥か?ガサゴソと奥に手を突っ込むと、ひんやりとした金属の感触が手に伝ってきた。
〇〇
〇〇
「おし、開けるヨォ」
がちゃり、という重い金属音を立ててドアを開くと、途端にムズムズするようないい匂いが鼻腔をくすぐる。
〇〇
〇〇
「待って、めっちゃ美味しそうな匂いするじゃん」
大我
大我
「でしょ⁉︎今日俺頑張ったんだよ!」
〇〇
〇〇
「そっかそっか、ありがとう」
手を洗う時も背中に引っ付いたまま離れない。
〇〇
〇〇
「せめて着替えさせて」
大我
大我
「はぁい」
急いで荷物を下ろし、スマホを抜き取りながら部屋着に着替える。

ピリピリした雰囲気から、このダボっとした感じの空気に切り替わるこの瞬間が私にとってはたまらなく心地良い。

ぺたぺたと廊下を歩いてくる音がすると、
大我
大我
「〇〇ちゃぁん、まだあ?」
〇〇
〇〇
「はいはい、今行くよぉ〜」
大我の甘えるようなとろんとした声が私を引き寄せる。

座ろうと椅子を引くと、「ギギギ、」という音を立てた。カバーとか付けた方がいいのかな。
大我
大我
「いただきます」
〇〇
〇〇
「いただきます」
やっぱり大我の手料理は最強だ。疲れも吹っ飛ぶ…訳ではないけど、そんな錯覚に陥らせてくれるほどの力がある。
〇〇
〇〇
「…うまっ」
大我
大我
「え⁉︎ほんと?やったぁ!」
目の前でガッツポーズを っしゃぁ、と決める大我。まるで褒められた子供のようだ。

でも、そんな姿も私にとっては良いご飯のお供。

ここのところ毎日遅くなってるから、せめて洗い物は私がやろう。


AM 1:00
大我
大我
「〇〇ちゃん、もうそろそろ寝た方が良くない?俺もう眠い、、、」
〇〇
〇〇
「ごめん大我、これどうしても仕上げないといけないからさ。もう寝てて良いよ」
大我
大我
「一晩でやんの?そのなんか…書類の山みたいなやつを?」
〇〇
〇〇
「大丈夫、これでも私タイピング検定準1級持ってるから」
大我
大我
「いや、そういう問題じゃなくてさぁ」
ごめん大我。今は適当にはぐらかさせて。これやっとかないと…明日何言われるか分からない。

これを家で全部済ませる条件で帰らせてもらってるから。

周りの先輩も後輩もみんな、私よりもっともっと頑張ってる。私だけ休む訳には行かないんだ、ごめんね。
〇〇
〇〇
「大丈夫だって、ほら坊ちゃんは寝る時間ですよぉ」
そう言って、半ば強引に大我をベッドに押し込む。
〇〇
〇〇
「終わったらすぐ戻ってくるからさ、もう寝ててよ」
大我
大我
「ぜったい?約束だよ?」
〇〇
〇〇
「もちろん」
もちろんこんなの口から出た出まかせだ。こんな山が一晩で終わる訳がない。

でもせめて、やれるところまでやってしまわないと。周りでは2徹3徹なんて当たり前。

一晩弱で終わらせられるならまだ良い方だ。

だから早くやらなきゃ。



AM 6:30

まずい。あと三分の一も残ってる。早くやらなきゃ。早く。もっと早く。
大我
大我
「〇〇ちゃん、朝ごはんは?早く食べようよ」
〇〇
〇〇
「ごめん、今日はいらないや。大我一人で食べて」
大我
大我
「…はぁい」

朝ごはん食べてる暇なんて無い。仕事着には夜中のうちに着替えたからすぐ出れる。

後…2時間。終わるかな。

いや、終わらせるんだ。無理矢理にでも。

早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く

私だけ休むなんてできないから。



AM 9:30
上司
上司
「〇〇さん。ちょっと良いかしら。」
〇〇
〇〇
「は、はい。」
何だろう。嫌な予感しかしない。怒られる。嫌だ。怖い。助けて、、、、
上司
上司
「昨日頼んだこの書類、間違いだらけじゃない」
ほらやっぱり。
上司
上司
「あなたはいつもそうね!どうせ毎日毎日、どこかの男と
朝まで遊び呆けてるんでしょう!だからミスばかりするのよ!」
誰がそんな事するか。こっちは彼氏持ちでっせ。
〇〇
〇〇
「……申し訳ありません」
上司
上司
「謝ってる暇があったら手を動かしたらどうなの⁉︎手を!
さっさとやりなさいよ小賢しい!私あなたみたいな人間が一番嫌いなのよ!」
私もあなたみたいな人間が一番嫌いです。
上司
上司
「はぁ……とにかく、これ今日の午後に使うんだから。
ミス全部直して、昼前までに持ってきて頂戴」
〇〇
〇〇
「…はい。分かりました」
あんのクソババァ。

駄目だ駄目だ、口が悪い。ミスする自分が悪いんじゃないか。さっさと終わらせないと。

昨日から動かしっぱなしで軽く腱鞘炎になっている手指を必死に動かす。

痛い。嫌だ。助けて。もう嫌だ。いっそのこと居なくなってしまえたら良いのに。



AM 2:30

あれこれと残業を押し付けられ、気づけばもうこんな夜中。周りは真っ暗で、警備員の人以外誰もいない。
〇〇
〇〇
「…………帰るか」
自分のデスクの電気を消し、重い腰を上げて出口へ向かう。

ふとスマホを確認すると、通知がえげつない数字になっていた。
大我
大我
『〇〇ちゃん』
大我
大我
『今どこ?』
大我
大我
『まだ会社?』
大我
大我
『返事してよ〜』
大我
大我
『浮気とかじゃ…ないよね…?』
大我
大我
『もう俺泣いちゃうよ、、、、』
大我
大我
『ねぇお願いだから既読つけて』
大我
大我
『まだ会社なの?それとも別のとこに居るの?』
大我
大我
『怒ってる?俺なんかしちゃったかな…』
大我
大我
不在着信
大我
大我
不在着信
大我
大我
不在着信
大我
大我
不在着信
大我
大我
『〇〇ちゃん…』
うっわ、めっちゃ来てんじゃん。ほぼ意識が朦朧としながら作業していたから、通知音に全く気づかなかった。

折り返してかけるか。

いや待てよ、ひょっとしたらもう寝てるかもしれない。意外とあり得るぞこれ。

まぁ……かけて損はないか。
大我
大我
「prrrrrrrrrr…ガチャ もしもし⁉︎〇〇ちゃん⁉︎〇〇ちゃん⁉︎心配したんだよ?今どこ?なんで出てくれなかったの?」
〇〇
〇〇
「ごめん、今会社」
大我
大我
「へ!?会社?なんで!?」
〇〇
〇〇
「残業」
大我
大我
「俺迎えに行こうか?」
〇〇
〇〇
「いいよ、一人で帰れるから」
大我
大我
「えぇ、でも…」
迎えに来ようとしたがる大我を押し切ってタクシーを呼ぶ。この時間だから終電は過ぎてしまった。
〇〇
〇〇
「すみません、△△までお願いします」
ゆらゆらとタクシーの揺れに身を任せ、街並みを眺める。あそこの唐揚げ屋、美味しかったな。

今度大我に買って行ってあげよう。
運転手
運転手
「さん、…客さん、お客さん、起きてください」
〇〇
〇〇
「へ?」
運転手
運転手
「起きてください、お客さん。付きましたよ。」
〇〇
〇〇
「……あぁ、すみません…ありがとうございます」
さて、ここから家までが長いんだよな。重い足を必死に動かし、半分くらいまで来た。

信号を待っていると、反対側に見慣れた顔が。
大我
大我
「〇〇ちゃああん!」
と叫びながらぶんぶんと大我が手を振っている。いや、今夜中…

半ば突進してくるようにして抱きついてくる。目と鼻は真っ赤だ。心なしか手も震えている。

よっぽど心配してくれてたんだな。そう思うとぎゅうっと胸が締め付けられて苦しい。
大我
大我
「〇〇ちゃん、もう帰ってこないかと思ったぁっ」
そう言いながら、私の胸に顔を埋める大我。優しく頭を撫でてやると、すっと顔を上げる。
大我
大我
「〇〇ちゃん、浮気なんかしないでね?俺だけだからね?ずっと一緒だもんね、大好き大好き大好き」
そう言ってまたぐりぐりと顔を埋める。
〇〇
〇〇
「ごめんごめん、長引いちゃって。浮気なんか絶対しないし大我だけだよ。私も大好き。」
そう言うと明らかに喜ぶ彼。さっきまであんなにわぁわぁ言っていたのが嘘のようで、もうるんるんのご機嫌だ。
大我
大我
「早くお家帰ろうねぇっ」

はぁ………可愛い。これで毎日頑張れてしまうんだから、はっきり言って私はちょろいと思う。





AM 6:00
〇〇
〇〇
「…ふぁ〜あ、おはよう大我ぁ」
大我
大我
「〇〇ちゃんおはよう!」
〇〇
〇〇
「あら、朝からお元気ですこと」
さて、今日も罵詈雑言浴びに行ってきますか。まず朝ごはん食べないと。

腹が減っては耐えられぬ!

ふんふんふんと鼻歌を歌いながら食パンにバターを塗っていると、大我に呼びかけられた。
大我
大我
「〇〇ちゃん」
〇〇
〇〇
「ん?どしたぁ?」
大我
大我
「なんかさぁ…最近元気無くない?」
ぎくり。バレてたかぁ。上手く隠せてると思ったんだけどなぁ………
〇〇
〇〇
「え?なんで?」
大我
大我
「だって…『ちゃんと寝てる』って言ってる割には目の下クマすごいし、前は仕事の話もすごく楽しそうにしてくれてたのに最近全然しないし」
〇〇
〇〇
「はぁ…」
大我
大我
「図星でしょ」
〇〇
〇〇
「そうっすねぇ…」
やっぱりバレてたか。最悪だ。一生懸命隠してたのに。大我に心配かけたくなかったから隠してたのに。

どうしよう。大我に嫌われちゃったらどうしよう。

仕事に毒されたつまんない女だって思われてるかもしれない。

嫌だ。怖い。大我と離れたくない。

嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
大我
大我
「んー、〇〇ちゃんさぁ…仕事辞めたら?」
〇〇
〇〇
「…は?無理無理無理、この年齢で無職は流石にヤバいって。生活費とか今でも精一杯なのに仕事辞めたら私ホームレスだよ。」
大我
大我
「いや、完全に辞めなくてもさ?…転職とかでも良いし…どう?」
〇〇
〇〇
「上が許してくれn
大我
大我
「俺が言ってあげるよ。だったらいいでしょ?」
〇〇
〇〇
「いやいや、どこがよ」
私だってやりたくてやってる訳じゃない。できる事なら転職したいし、仕事だって辞めたい。

でも無理だ。
大我
大我
「…じゃあさ、俺が食べさせてあげるのは?十分俺のお金でごはんたべれると思うんだよねぇ。」
〇〇
〇〇
「いや、駄目だよ。結婚してる訳でもないのにさ、大我の稼ぎに甘えるなんて」
大我
大我
「え…?〇〇ちゃん、もしかして気づいてない?笑笑」
〇〇
〇〇
「…え、何に?」
大我
大我
「ほら、それ」

ふと白く光る電灯にかざし、見上げた左手薬指。

美しい銀のリングに乗った小さなダイアモンドが、強く確かな輝きを放って揺らめいていた。