弾かれるように振り返れば、
藤ヶ谷 昌がニヤニヤしながら
こちらを見ている。
そう言いながら藤ヶ谷 昌は、
私の頬を見て目を見張る。
ガシッと肩を掴まれた。
みくるを狙う変質者たちと
幾度も対峙してきた私も、
さすがに心臓が止まりそうになった。
背中にしょっている
竹刀に手を伸ばしかけたとき──。
藤ヶ谷 昌の指が
私の傷のすぐ下の肌をすっとなぞる。
藤ヶ谷 昌は、私を離すどころか
強く抱き着いてきた。
ぐぎぎぎーっ、と歯を食いしばりながら、
必死に藤ヶ谷 昌の腕を振り解こうとするも、
できない。
私はやけくそになって、
自分のフルネームを叫んでやった。
名前を呼ばれた途端、
まだ6月だというのに、
ぞわぞわっと寒気がした。
***
──翌日の放課後……。
私は剣道場で主将の伊澄 真司(いすみ しんじ)先輩と
手合わせしていた。
竹刀を真司先輩に向かって容赦なく振り下ろす。
私の仕掛けた一撃を難なく避けた真司先輩は、
深くこちらに踏み込み──。
目にも止まらぬ速さで、
私の面に竹刀を叩き込んだ。
打ち込まれた衝撃で、
私の身体は後ろに倒れる。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!