第10話

10話 こんなこと話したの、初めてだ
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2020/09/24 09:00
なぜか後ろから、
藤ヶ谷 昌に手首を掴まれる。
あなた

なんだよ。お前も早く
帰れよな。こんなところに
ひとりでいたら、危ないぞ

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
うん、そのイケメンセリフ、
俺に譲ってくれないかな
藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
──じゃなくて!
あなた

なに、ひとりでノリ
ツッコミしてるんだ?

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
いやいや! あなたちゃん、
なにひとりで帰ろうとしてんの
あなた

は? むしろ自分の家に
自分以外の人間と帰るほうが
ホラーだろ

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
そこは男子に送ってもらえる
胸キュンシチュエーションのほうに
想像をシフトできませんかね
あなた

どうして私が送って
もらわなきゃいけないんだ。
腕っぷしなら自信があるのに

掴まれてないほうの手を挙げ、
私は二の腕を見せる。
あなた

見よ、この筋肉。
日々の鍛錬の賜物だ

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
うん、話が進まないから、
まずは俺の話を聞いてくれる?
ガックシと効果音でも
聞こえてきそうなほど、
藤ヶ谷 昌は肩を落とす。

それから少し怒ったように、
眉を吊り上げる。
藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
どうして自分なら
大丈夫だって思うの。
強くたって、相手が大勢だったら?
あなた

勝てるぞ

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
わからないでしょ。
もしこのあと体調が悪くなったら?
本調子で戦えないかもよ?
あなた

勝てる!

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
ムキになるところじゃないから
藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
とにかく危ないでしょ。
もう真っ暗だし、送る
あなた

いいって。あ……
そういえばお前、前に女の子に
襲われてたよな。自業自得で

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
最後の、地味に刺さるなー
あなた

事実だろ。だから、
私がお前を家まで送って……

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
断る。絵面的にも断る!
あと、あなたちゃんは
守り慣れすぎ
あなた

慣れとか、そういうんじゃない。
私はしたいことをしてるだけだ

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
女の子なのに……。
たくましいところも好きだけど、
俺としては心配
あなた

(好き……)

特別な意味はないとわかっているけど、
無性に胸が騒ぐ。

いつもなら息をするみたいに
口からぽんぽん軽口が飛び出すのに、
なぜか今は会話が途切れる。

繋いだままの藤ヶ谷 昌の
手のぬくもりをやけに感じた。
あなた

な、なあ

沈黙に耐えかねて、
私は話しかける。
藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
んー?
あなた

バイトって、大変か?

声をかけといて、
これといって用件もなかった私は、
当たり障りない質問をしてしまった。
藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
そうだな……。大変だけど、
勉強になるから
あなた

勉強?

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
俺、いつか自分の店持つのが
夢なんだ。だから今はバイトで
修行中
あなた

パンケーキ屋で修行?

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
はは、あそこは食べてる人が
みんな笑顔になるからな
あなた

(藤ヶ谷 昌の顔が、
いつもよりキラキラしてる。
きっと、夢を持ってるからなんだろうな)

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
……って、なんで俺、
こんなこと話しちゃってんだろ
藤ヶ谷 昌はふいっとそっぽを向いて、
口元を手で押さえる。
藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
……はずっ。こんなこと、
女の子に話したの初めてだ

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