第5話

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2020/08/20 09:00
あなた

んっ

掠めるように温もりが唇に触れた。

キスされたと気づくのに、
少しだけ時間がかかる。
あなた

な、な、ななっ……

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
これでチャラにしてあげる
藤ヶ谷 昌は、
ぺろりと自分の唇を舐めた。

その仕草が妙に色っぽくて、
私はふいっと目を逸らすと──。
あなた

二度と私の前に現れるな!

勢いよく藤ヶ谷 昌の手を振り払った。


***

数日後……。

お昼休みに、みくると
購買にやってくると……。
???
???
あなたちゃんっ
急に後ろから誰かの腕が伸びてきて、
お腹に回る。

振り返らずとも、犯人はわかる。

この数日、何度も〝やつ〟に、
許可なく抱きつかれているのだ。
あなた

今日はあんぱんが
割引みたいだぞ。
みくる、好きだったよな

美園 みくる
美園 みくる
そ、そうだね
抱きしめられようが無視を決め込む私の背を、
みくるはちらちらと見ながら苦笑い。

私は〝やつ〟を空気のように扱って、
大好物のきな粉餅パンに手を伸ばす。
???
???
俺、あんぱんより、
こっちが好きだなー
あなた

えっ

〝やつ〟──藤ヶ谷 昌と、
同じきな粉餅パンの上で手が重なる。

同時に顔を見合わせて、
私たちは目を丸くした。
あなた

(これ、購買ではあんまり
人気がないんだけどな。まさか、
こいつも好きだったなんて……)

あなた

(なら、他のパンにするか)

そう思って、隣の焼きそばメロンパンを
取ろうとする。
藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
じゃあ、俺はこれで
またもや藤ヶ谷 昌と手が重なる。
あなた

…………

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
…………
数秒、そのまま停止した。

そして、再び弾かれるように
顔を見合わせる。
あなた

ま、真似すんなよな!

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
いやいや、
俺もこれ好きなんだよ!
あなた

う、嘘だろ?

あなた

(まさか購買で不人気の
きな粉餅パンと焼きそばメロンパンを
選ぶやつがいるなんて……)

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
絶対に少数派だと
思ってたんだけど!
あなた

それはこっちのセリフだ!

あなた

(こんなやつと食の好みが
シンクロしてるだなんて……
不愉快だ!)

美園 みくる
美園 みくる
ふ、ふたりとも。
とりあえず、パン買っちゃわない?
うしろ、つかえてるみたい
みくるに言われて振り返ると、
早く選べよ!と言いたげな顔で、
生徒たちに睨まれた。
あなた

そ、そうだな

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
はーい
私たちはそそくさとパンを買い、
ラウンジにあるテーブル席に移動する。
あなた

で、なんでお前まで
ついてくるんだよ

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
みくるちゃんが誘って
くれたからだよ
美園 みくる
美園 みくる
いいじゃない、あなた。
みんなで食べたほうがおいしいよ
あなた

みくるは危機感が足りないんだ。
いつ、この変態がちょっかいを
かけてくることやら

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
俺がちょっかいをかけたいのは、
あなたちゃんなんだけどなー
あなた

その口、黙らせてやろうか

私は自分が食べていたきな粉餅パンを
藤ヶ谷 昌の口に突っ込む。
藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
ふぐうっ、……んぐっ、はあ。
もう突っ込んでるって!
あなた

悪かったな。
身体が先に動いたみたいだ

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
そうだよね、覚えはあるよ?
いくつかね
とくに怒った様子もなく、
藤ヶ谷 昌は私に食べかけの
焼きそばメロンパンを差し出してきた。
あなた

な、なんだよ

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