掠めるように温もりが唇に触れた。
キスされたと気づくのに、
少しだけ時間がかかる。
藤ヶ谷 昌は、
ぺろりと自分の唇を舐めた。
その仕草が妙に色っぽくて、
私はふいっと目を逸らすと──。
勢いよく藤ヶ谷 昌の手を振り払った。
***
数日後……。
お昼休みに、みくると
購買にやってくると……。
急に後ろから誰かの腕が伸びてきて、
お腹に回る。
振り返らずとも、犯人はわかる。
この数日、何度も〝やつ〟に、
許可なく抱きつかれているのだ。
抱きしめられようが無視を決め込む私の背を、
みくるはちらちらと見ながら苦笑い。
私は〝やつ〟を空気のように扱って、
大好物のきな粉餅パンに手を伸ばす。
〝やつ〟──藤ヶ谷 昌と、
同じきな粉餅パンの上で手が重なる。
同時に顔を見合わせて、
私たちは目を丸くした。
そう思って、隣の焼きそばメロンパンを
取ろうとする。
またもや藤ヶ谷 昌と手が重なる。
数秒、そのまま停止した。
そして、再び弾かれるように
顔を見合わせる。
みくるに言われて振り返ると、
早く選べよ!と言いたげな顔で、
生徒たちに睨まれた。
私たちはそそくさとパンを買い、
ラウンジにあるテーブル席に移動する。
私は自分が食べていたきな粉餅パンを
藤ヶ谷 昌の口に突っ込む。
とくに怒った様子もなく、
藤ヶ谷 昌は私に食べかけの
焼きそばメロンパンを差し出してきた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。