第4話

4話 一方的な片想い
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2020/08/13 09:00
あなた

……!

鼓膜をくすぐるような囁きに、
私は耳元を手で押さえながら、
後ろへ飛び退いた。
藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
そこの先輩には従順だし
あなた

なにを勘違いしてるのかは
知らないけど、尊敬する師匠の
言葉だから聞くんだ

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
ふーん
あなた

(そっちから聞いてきたくせに、
なんだよ、『ふーん』って)

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
それにしても……
藤ヶ谷 昌の視線が、
なぜか私の道着に注がれる。
藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
道着姿も新鮮でいいね。
あと、首筋を伝う汗がエロイ
あなた

……真司先輩

あなた

(斬ってもいいですか!?)

またもや竹刀の柄を握り締めた私に、
真司先輩は静かに首を横に振った。
伊澄 真司
伊澄 真司
道場で死人を出すな
あなた

うっ

あなた

(ですよね……。
でも、藤ヶ谷 昌への殺意が
おさえきれない!)

そんな私の気持ちを見透かしたように、
真司先輩はため息をつく。

そして、一歩前に出ると、
厳しい顔つきで藤ヶ谷 昌を見据えた。
伊澄 真司
伊澄 真司
悪いが、うちの部員に不埒な視線は
向けないでもらいたい
藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
……あー、なるほど。
真司先輩の一方的な片想いですか
意地悪く笑った藤ヶ谷 昌の言葉に、
真司先輩がぐっと拳を握りしめる。
あなた

(真司先輩……?)

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
ぷっ、図星かー
黙り込む真司先輩の横を通り過ぎて、
藤ヶ谷 昌が私の前までやってくる。

真司先輩が振り向くより先に、
藤ヶ谷 昌が私を抱き寄せて──。
藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
俺がこんなふうに
抱き寄せちゃったりしたら、
先輩は俺をその竹刀で斬るのかなー?
あなた

なっ

あなた

(いきなり、なにしてくれるんだ、
こいつは!)

伊澄 真司
伊澄 真司
……っ、あなた!
藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
ザ・武士って感じの真司先輩も、
さすがに黙ってられないんじゃな──
あなた

安心しろ、私がもう我慢できない

先ほどの真司先輩の注意も忘れて、
私は竹刀を藤ヶ谷 昌の顔面目掛けて
振り下ろした。
あなた

メェェェーンッ!!

***

藤ヶ谷 昌に綺麗な面打ちを決めたあと……。

みくると真司先輩には部活に戻ってもらい、
私は保健室に来ていた。
あなた

やりすぎたって自覚はある

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
まさか、俺の顔面を少しの
躊躇もなしに攻撃してくるとは
思ってなかったよ
保健室の先生がいなかったので、
私は仕方なく藤ヶ谷 昌を丸椅子に座らせ、
手当てをする。
あなた

(いくらムカついたからって、
丸腰の相手に竹刀を振るうのは、
よくなかったよな……)

赤くなった藤ヶ谷 昌の額に氷嚢を乗せながら、
とてつもない罪悪感に襲われた。
藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
俺の顔、一応他の女子からは
国宝級だって賞賛されてるんだよ?
あなた

悪かったよ

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
…………
藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
そこは自画自賛かよ!とか、
どんだけ自分好きなんだよ! 
このナルシストが!とか、
突っ込むところじゃない?
あなた

お前、私のことをなんだと
思ってるんだ

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
女番長?
失礼極まりない発言ではあるが、
怒る気にはなれない。

今回は感情的に動いた私が、
全面的に悪い。
あなた

さすがに……

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
……?
あなた

こんな傷を負わせておいて、
あれこれ言えるほど、
無神経じゃないつもりだ

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
……気にしてるんだ?
あなた

あ、当たり前だろ!

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
じゃあ──
藤ヶ谷 昌に腕を掴まれ、
強く引かれる。

少しだけ腰を上げた藤ヶ谷 昌の顔が
どんどん近づいて……。

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