鼓膜をくすぐるような囁きに、
私は耳元を手で押さえながら、
後ろへ飛び退いた。
藤ヶ谷 昌の視線が、
なぜか私の道着に注がれる。
またもや竹刀の柄を握り締めた私に、
真司先輩は静かに首を横に振った。
そんな私の気持ちを見透かしたように、
真司先輩はため息をつく。
そして、一歩前に出ると、
厳しい顔つきで藤ヶ谷 昌を見据えた。
意地悪く笑った藤ヶ谷 昌の言葉に、
真司先輩がぐっと拳を握りしめる。
黙り込む真司先輩の横を通り過ぎて、
藤ヶ谷 昌が私の前までやってくる。
真司先輩が振り向くより先に、
藤ヶ谷 昌が私を抱き寄せて──。
先ほどの真司先輩の注意も忘れて、
私は竹刀を藤ヶ谷 昌の顔面目掛けて
振り下ろした。
***
藤ヶ谷 昌に綺麗な面打ちを決めたあと……。
みくると真司先輩には部活に戻ってもらい、
私は保健室に来ていた。
保健室の先生がいなかったので、
私は仕方なく藤ヶ谷 昌を丸椅子に座らせ、
手当てをする。
赤くなった藤ヶ谷 昌の額に氷嚢を乗せながら、
とてつもない罪悪感に襲われた。
失礼極まりない発言ではあるが、
怒る気にはなれない。
今回は感情的に動いた私が、
全面的に悪い。
藤ヶ谷 昌に腕を掴まれ、
強く引かれる。
少しだけ腰を上げた藤ヶ谷 昌の顔が
どんどん近づいて……。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。