直球で聞いてくるみくるに、
私はガタッと大きな音を響かせて、
立ち上がった。
耳慣れた渋い声が背後から
聞こえて振り返る。
たまたま通りかかったのか、
真司先輩は一緒にいた友人たちに
断りを入れて、私のそばに立つ。
頭を抱えたくなっていると、
真司先輩が拳を握って、
なぜか昌を見据えた。
頭の中に『口説いても構わないな?』という
先輩の言葉がリフレインする。
真司先輩が私に向き直る。
胸が忙しなく鼓動を打っているのは、
戸惑いのせいか、驚きのせいか、
それとも……。
柄にもなく、ときめいているせいか。
返事ができないまま、
真司先輩の目を見つめることしか
できないでいると──。
隣で昌が立ち上がる気配がする。
振り向くと、昌は好戦的に笑っていた。
また、鼓動がけたたましく鳴りだす。
まるで、なにかの警報のように。
全身が火照る、胸がいっぱいで苦しい。
嘘だ!と言い返しそうになった口を
すぐに閉じる。
目元を赤らめて、真剣な表情をした昌は、
嘘をついているようには見えなかったから。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!