第12話

12話 俺の心を好きになってほしい
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2020/10/08 09:00
あなた

え!

美園 みくる
美園 みくる
だって、いつもなら
藤ヶ谷くん、あなたに
いきなりハグしてたでしょ?
藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
そ、そうだっけ?
美園 みくる
美園 みくる
あなたも、いつの間にか
藤ヶ谷くんのことを下の名前で
呼んでるし
あなた

うっ

美園 みくる
美園 みくる
もしかして、ふたり……
付き合った?
直球で聞いてくるみくるに、
私はガタッと大きな音を響かせて、
立ち上がった。
あなた

それは違う!

???
???
なにが違うんだ?
耳慣れた渋い声が背後から
聞こえて振り返る。
あなた

真司先輩!

たまたま通りかかったのか、
真司先輩は一緒にいた友人たちに
断りを入れて、私のそばに立つ。
美園 みくる
美園 みくる
ふたりが仲良くなってる気がして、
付き合ってるのか聞いてみたんです
あなた

み、みくる!

伊澄 真司
伊澄 真司
あなた、そうなのか?
あなた

違いますって

あなた

(先輩まで、そんな真顔で
聞いてこないでくれ……)

頭を抱えたくなっていると、
真司先輩が拳を握って、
なぜか昌を見据えた。
伊澄 真司
伊澄 真司
なら、俺があなたを
口説いても構わないな?
あなた

(……ん?)

頭の中に『口説いても構わないな?』という
先輩の言葉がリフレインする。
あなた

あ、あの……真司先輩、
頭大丈夫ですか? もしかして、
竹刀で頭打たれ過ぎて、
脳細胞死にました?

伊澄 真司
伊澄 真司
もっとゆっくり、
距離を縮めようと思って
いたんだがな
真司先輩が私に向き直る。
伊澄 真司
伊澄 真司
このままだと、
手遅れになりそうだから
あなた

手遅れ?

伊澄 真司
伊澄 真司
誰にも取られたくない。
だから、覚悟を決める
あなた

え……

伊澄 真司
伊澄 真司
ずっと好きだった。
誰かのために、ひたむきに
強くなろうとするあなたのことが
あなた

(これは……夢か?
今まで、そんな素振りすらなかった。
いや、私が気づいてなかっただけか?)

胸が忙しなく鼓動を打っているのは、
戸惑いのせいか、驚きのせいか、
それとも……。

柄にもなく、ときめいているせいか。

返事ができないまま、
真司先輩の目を見つめることしか
できないでいると──。
藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
わかってたけど、
俺の前で告白するってことは、
宣戦布告ってわけか
隣で昌が立ち上がる気配がする。

振り向くと、昌は好戦的に笑っていた。
藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
だけど、おかげさまで気づいたわ。
あなたを取られそうになって、
焦ってる理由
あなた

(昌まで、なにを言い出す気だ?)

また、鼓動がけたたましく鳴りだす。

まるで、なにかの警報のように。
藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
俺も、あなたちゃんが好きだ。
絶対に誰にもあげたくない
あなた

なっ──

あなた

(昌まで、なにを言ってるんだ!)

全身が火照る、胸がいっぱいで苦しい。
あなた

(私の身体、どうなってるんだ!?)

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
本当は薄々気づいてた。
あなたちゃんが俺の中で、
特別な女の子になってたこと
あなた

また、私をからかってるのか?

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
違うよ。からかってない。
これが俺の本心
嘘だ!と言い返しそうになった口を
すぐに閉じる。

目元を赤らめて、真剣な表情をした昌は、
嘘をついているようには見えなかったから。
藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
きみに、俺の心を好きに
なってほしい

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