慌てたように私の手を掴んだ
真司先輩だったけれど、
こちらの体重が思いのほか
重かったのかもしれない。
私たちは、もつれ合うように転ぶ。
私に覆い被さっている真司先輩が、
そう言いながら目を見張った。
後頭部に手の感触。
道場の床にぶつからないように、
先輩がとっさに私の後頭部に手を差し込んで
くれたらしい。
真司先輩は私を抱き起こす。
ふたりで頭の防具を脱ぐと、
先輩はなぜか口元を手で覆い、
私から顔を背ける。
大丈夫です!と証明するように
腕を動かして見せると、
真司先輩がほっと息をつく。
困ったように笑い、
真司先輩は私の頭を撫でた。
その瞬間、道場にざわめきが起こる。
差し出された手を取って、
立ち上がったとき──。
振り返ると、道場の入口に藤ヶ谷 昌と、
なぜかみくるが立っていた。
そう言って、藤ヶ谷 昌は
さりげなくみくるの肩を抱く。
私は竹刀の柄を強く握りしめる。
藤ヶ谷 昌のもとへ全速力で走る。
ぽかんとした藤ヶ谷 昌のアホ面めがけて、
私は竹刀を振り下ろそうとした。
けれど──。
背後から羽交い締めにされ、
私は「うー……」と不満の声をもらす。
伊澄先輩は私を解放するや否や、
問題児を説教する教師の目で
私を見下ろした。
ビシッと藤ヶ谷 昌を指差す。
すると藤ヶ谷 昌は自分を指差して、
「どうも、こいつです」と言う。
真司先輩の顔に
〝言い訳するな〟と書いてある。
ふっと真司先輩の表情が緩み、
私は安堵の息をつく。
剣道で培ったのか?と尊敬していると、
そばに誰かが立った気がした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。