第3話

3話 師弟関係?
9,801
2020/08/06 09:00
慌てたように私の手を掴んだ
真司先輩だったけれど、
こちらの体重が思いのほか
重かったのかもしれない。
あなた

痛っ

私たちは、もつれ合うように転ぶ。
伊澄 真司
伊澄 真司
っ……、怪我はない……か……
私に覆い被さっている真司先輩が、
そう言いながら目を見張った。
あなた

(今のところ、どこも痛くないしな。
怪我はなさそうだ……って!)

後頭部に手の感触。

道場の床にぶつからないように、
先輩がとっさに私の後頭部に手を差し込んで
くれたらしい。
あなた

先輩、手! 私の石頭抱えて、
手、大丈夫ですか!?

あなた

(私のせいで先輩が竹刀を
握れなくなったら大変だ!)

伊澄 真司
伊澄 真司
いや、心配するところ、
おかしいだろう
真司先輩は私を抱き起こす。

ふたりで頭の防具を脱ぐと、
先輩はなぜか口元を手で覆い、
私から顔を背ける。
伊澄 真司
伊澄 真司
本気で打ち込んで悪かったな
あなた

なに言ってるんですか!
私は女だからって
手加減されるのは嫌いです!

あなた

それがわかってたから、真司先輩も
本気で戦ってくれたんですよね?

伊澄 真司
伊澄 真司
……まあな。だが、
怪我をさせたら元も子もない
あなた

私はぴんぴんしてますから!

大丈夫です!と証明するように
腕を動かして見せると、
真司先輩がほっと息をつく。
伊澄 真司
伊澄 真司
そうみたいだな
困ったように笑い、
真司先輩は私の頭を撫でた。

その瞬間、道場にざわめきが起こる。
部員1
部員1
見ろよ、伊澄先輩が笑ってるぞ
部員2
部員2
あなた相手には試合のときも
容赦ないし、けどああやって
優しい顔もするし……
部員3
部員3
なんなんだろうな、
あのふたりの関係って
部員たち
部員たち
……師弟関係?
伊澄 真司
伊澄 真司
立てるか?
あなた

ありがとうございます

差し出された手を取って、
立ち上がったとき──。
藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
おーい、あなたちゃーん
あなた

(この声は……!)

振り返ると、道場の入口に藤ヶ谷 昌と、
なぜかみくるが立っていた。
あなた

なんで藤ヶ谷 昌が
みくると一緒にいるんだ?

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
あなたちゃん、探したよー!
みくるちゃん、案内してくれて
ありがとう
そう言って、藤ヶ谷 昌は
さりげなくみくるの肩を抱く。
美園 みくる
美園 みくる
あっ
あなた

──なっ、みくるになにして
くれてんだよ、お前!

私は竹刀の柄を強く握りしめる。
あなた

(絶対に許さん!)

藤ヶ谷 昌のもとへ全速力で走る。
藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
嫉妬? 安心して、
今の俺はあなたちゃんにしか
興味な──
あなた

斬る!!

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
えっ
ぽかんとした藤ヶ谷 昌のアホ面めがけて、
私は竹刀を振り下ろそうとした。

けれど──。
伊澄 真司
伊澄 真司
そこまでだ
背後から羽交い締めにされ、
私は「うー……」と不満の声をもらす。
あなた

真司先輩! こいつは敵です!
なので斬っても我に正義あり!

伊澄 真司
伊澄 真司
お前、言葉がおかしいぞ。
……それはいいとして
伊澄先輩は私を解放するや否や、
問題児を説教する教師の目で
私を見下ろした。
伊澄 真司
伊澄 真司
どんな理由があるにせよ、
無抵抗な相手に手はあげるな
あなた

でもっ、こいつみくるの肩に!

ビシッと藤ヶ谷 昌を指差す。

すると藤ヶ谷 昌は自分を指差して、
「どうも、こいつです」と言う。
あなた

(なんだよ、こいつ呼びが
気にくわなかったのか?)

美園 みくる
美園 みくる
あなた、私は大丈夫だよ
あなた

でもっ、私の気が収まらない!

伊澄 真司
伊澄 真司
あなた
真司先輩の顔に
〝言い訳するな〟と書いてある。
あなた

ご、ごめんなさい

伊澄 真司
伊澄 真司
わかればいい
ふっと真司先輩の表情が緩み、
私は安堵の息をつく。
あなた

(さすがは真司先輩。
静かに怒ってるときの気迫が
凄まじい!)

剣道で培ったのか?と尊敬していると、
そばに誰かが立った気がした。
藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
妬けるなー

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