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第1話

1話 彼氏が欲しい!
高校の昼休みのこと──。
亜子
亜子
あなたはさぁー、
とにかく彼氏を作るべきだと思う
机をくっつけてお弁当を食べていたら、
親友のひとり、亜子あこが唐突に
恋バナをぶっこんできた。

私はもう慣れたけど、
彼女のがっつりメイクに、
金の巻き髪は校内でよく目立つ。

校則を総無視して、
何度も生徒指導を受けている勇者ギャルだ。
あなた

藪から棒に……。
どうして、私の彼氏の話になるの?

紗枝
紗枝
確かにバイト三昧で、
彼氏の『か』の字もないものね
同じく親友の紗枝さえが、
机に頬杖をついて、
哀れみの目を向けてきた。

彼女も亜子と同じくギャル。

ふたりとは高校に入ってからの付き合いだ。

教室でタバコの匂いがすると
騒ぎになったときのこと。


見てくれのせいか、
先生に犯人だと疑われたふたりを庇って、
懐かれたのが付き合いの始まり。

今では、人生でいちばんの
親友と言ってもいい。
あなた

そんな目で見ないでよー。
私だって、できるなら
彼氏欲しいけどさ……

私が生まれてすぐ、
お父さんが病気で死に、
うちは母子家庭になった。

私に兄弟はいないので、
たったふたりだけの家族だ。

だから、高校生になってから
バイトを始めて……。

気づいたら1年が経っている。
あなた

少しでも、お母さんの
負担を減らしたいし。
遊んでる暇なんてないよ

ふたりはうちの家庭の事情も知っている。

だからか、気遣うような眼差しを向けてきた。
亜子
亜子
学費も携帯代も自分で払ってさ、
こんなにいい子なのにぃー
紗枝
紗枝
男どもはなにを見てるんだか
あなた

(ふたりは私を過大評価しすぎだと
思うけど……彼氏かあ)

亜子には他校生の彼氏が、
紗枝には大学生の彼氏がいる。
あなた

(私、バイトに明け暮れて、
高校生らしい青春しないまま、
卒業しちゃうのかも……)

そう思うと、途端に焦ってきた。
あなた

ふたりは彼氏いるよね?
どうやって作ったの?

亜子
亜子
お~? 乗り気になってきた?
あたしは、カラオケでナンパされた
紗枝
紗枝
あたしは兄貴の紹介。
合コン、セッティングして
もらったのよ
あなた

ご、合コンですか!

あなた

(なんたる大人な響き!)

亜子
亜子
いろんな男子に会えるのはいいよね。
とりあえず数をこなして、
いい物件を探すべし
あなた

数、ですか……。
なんか、不誠実な気が……

紗枝
紗枝
なに言ってんの!
付き合ってみないとわからない
ことのほうが多いんだから、
付き合う前からみさお立てなくていいのよ
あなた

(亜子と紗枝は、大人だなー……)

ふたりはそれからも、
彼氏の作り方について、
あれこれ講義してくれる。

私は聞き漏らさないようにと、
熱心に耳を傾けたのだった。

***

──放課後。

私は学校から徒歩15分のところにある、
花屋『flower salonフラワー サロン』でバイトをしていた。
あなた

(彼氏かあ……)

店のレジカウンターで、
チラシを無心で折っていると、
どうしても考えてしまう。
あなた

(私、このままでいいのかな。
親友も周りの子も恋してて、
彼氏もいて……)

恋にオシャレに勤しんでいる親友たちは 
どこかキラキラしている。

それに対して、
私の高校生活には間違いなく華がない。
あなた

私だけ、青春に置いてきぼりに
されてる気が……

あなた

(あーっ、どうしたらできるの!
彼氏、彼氏、彼氏、彼氏ー!)

心の中で『彼氏』と唱えながら、
チラシを折る私……かなり残念なやつだ。
あなた

彼氏、彼氏、彼氏、彼氏──。
……はあ

???
???
彼氏、欲しいの?
ひょいっと下から
私の顔を覗き込む誰か。

いつの間にそこにいたのか、
カウンターの前に立ち、
柔和な笑みを浮かべている。
あなた

店長! なぜそれを!?

彼は25歳という若さで、
花屋『flower salon』の店長を務める、
草間 樹くさま いつきさんだ。
草間 樹
草間 樹
それは……
店長は言いにくそうに、
頬を掻いて──。
草間 樹
草間 樹
あなたちゃんが、
お経みたいに『彼氏、彼氏』
って呟いてたから……かな
あなた

(死にたい!)

私は両手で顔を覆い、
カウンターに突っ伏した。