高校の昼休みのこと──。
机をくっつけてお弁当を食べていたら、
親友のひとり、亜子が唐突に
恋バナをぶっこんできた。
私はもう慣れたけど、
彼女のがっつりメイクに、
金の巻き髪は校内でよく目立つ。
校則を総無視して、
何度も生徒指導を受けている勇者ギャルだ。
同じく親友の紗枝が、
机に頬杖をついて、
哀れみの目を向けてきた。
彼女も亜子と同じくギャル。
ふたりとは高校に入ってからの付き合いだ。
教室でタバコの匂いがすると
騒ぎになったときのこと。
見てくれのせいか、
先生に犯人だと疑われたふたりを庇って、
懐かれたのが付き合いの始まり。
今では、人生でいちばんの
親友と言ってもいい。
私が生まれてすぐ、
お父さんが病気で死に、
うちは母子家庭になった。
私に兄弟はいないので、
たったふたりだけの家族だ。
だから、高校生になってから
バイトを始めて……。
気づいたら1年が経っている。
ふたりはうちの家庭の事情も知っている。
だからか、気遣うような眼差しを向けてきた。
亜子には他校生の彼氏が、
紗枝には大学生の彼氏がいる。
そう思うと、途端に焦ってきた。
ふたりはそれからも、
彼氏の作り方について、
あれこれ講義してくれる。
私は聞き漏らさないようにと、
熱心に耳を傾けたのだった。
***
──放課後。
私は学校から徒歩15分のところにある、
花屋『flower salon』でバイトをしていた。
店のレジカウンターで、
チラシを無心で折っていると、
どうしても考えてしまう。
恋にオシャレに勤しんでいる親友たちは
どこかキラキラしている。
それに対して、
私の高校生活には間違いなく華がない。
心の中で『彼氏』と唱えながら、
チラシを折る私……かなり残念なやつだ。
ひょいっと下から
私の顔を覗き込む誰か。
いつの間にそこにいたのか、
カウンターの前に立ち、
柔和な笑みを浮かべている。
彼は25歳という若さで、
花屋『flower salon』の店長を務める、
草間 樹さんだ。
店長は言いにくそうに、
頬を掻いて──。
私は両手で顔を覆い、
カウンターに突っ伏した。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。