数日後──。
お店の定休日に、
紫乃くんの歓迎会をすることになった。
私と紫乃くんはお酒が飲めないので、
場所はファミレスだ。
紫乃くん、うちに来てくれて
ありがとう
参加者──というか、
現在の従業員は私と紫乃くんだけなので、
店長も含めて人数は3人。
お店ではよく顔を合わせているけれど、
こうして休みの日に会うのは、
なんだか新鮮だった。
いえ、俺の方こそ
雇ってもらえて感謝してます
紫乃くん、私なんかよりずっと
優秀だから、逆に勉強させられる
ことばっかりだよ
俺はあなたちゃんのことも
頼りにしてるよ
店長……
(店長を見ると、
あの日のハグを思い出しちゃう)
あれはきっと、お母さんと和解できそうで、
ほっとしたからだろう。
(特別な意味なんてない。
ただ、人肌が恋しかっただけ……だよね?)
実際、店長はすぐに私から離れた。
ちょっとトイレに行ってくるね
店長が席を立つと、
ここぞとばかりに紫乃くんが顔を近づけてくる。
……店長となんかあった?
な、なんで!?
(あ、声が裏返っちゃった)
あんたって、救いようがないくらい
わかりやすいよね
うう……
自供しなよ
だから、なんで刑事!?
そんなツッコミをしつつも、
私はこの間のことを話す。
店長の過去を話すのは気が引けたけれど、
今の紫乃くんは私の彼氏だ。
(隠し事をして不安にさせるのは
嫌だし……って、なんでそんなふうに
思うんだろう。やっぱり、これって……)
頭の中に浮かぶ2文字。
(私、紫乃くんが好きってこと?)
ここのところ毎日、
この問いかけを自分にしている。
(と、とにかく!
今は、店長のことだよね。
紫乃くんは人の過去を面白半分に
言いふらす人じゃないし、
かいつまんで話そう)
そうして自供をすると、
紫乃くんに前髪を掻き上げられ、
容赦なくデコピンされた。
痛っ
店長の心を動かしたわけ。
あんたらしいと思うけど、
ライバルが増えた身としては、
内心穏やかじゃないよ
ライバルって……。
店長は私のことをバイトの子として
しか見てないよ
だから鈍感って言われるんだよ
(紫乃くんにだけね!)
店長があなたを見る目、
これまでと違ってる
そうかなあ?
なら、確かめてみる?
紫乃くんはそう言って、
店長が席に戻ってくるや否や──。
店長、あなたのこと、
好きなんですか?
紫乃くん!?
(なんてことを店長に聞いてるの!)
店長は当然だが、
目を丸くして固まっている。
仲間としてとかじゃなくて、
異性としてって意味ですから。
ちなみに、俺は好きです。
特別な女の子だと思ってます
(紫乃くん……)
こんなときに、
自分でも本当にどうかしてると思うけど、
ときめいてしまった。
紫乃くんは真剣なんだね。
なら……
なぜか、店長が私をまっすぐに見据えた。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!