第19話

19話 失いたくない人
2,828
2020/10/10 04:00
店長の真剣な瞳に、
鼓動がどんどん加速していく。
あなた

(店長、なにを言うつもりなんだろう)

そう思いつつも、本当は予感があった。
あなた

(もしかしたら、私のことを……って)

草間 樹
草間 樹
あの日、過去に置き去りに
なってた俺の心をあなたちゃんが
前に進めてくれた。そんな相手、
きっともう現れないって思ってる
あなた

……っ

あなた

(店長が幸せだって
思える日がくればいい。
そう思ってた。だけど……)

草間 樹
草間 樹
好きです。あなたちゃんとなら、
次に進みたいって思ってる
あなた

私は……

あなた

(店長に同じ気持ちを
返すことはできない。
だって、紫乃くんの彼女だから……)

常葉 紫乃
常葉 紫乃
俺はまだ、あなたの気持ちを
聞いてない。だから、
あなたは選べる
あなた

(それって……。
私が店長を選んだら、
紫乃くんは別れてもいいって、
そう言ってるの?)

紫乃くんを見ると、
口では潔いことを言いながら、
不安そうな顔をしていた。

しかも、テーブルの下でぎゅっと手を握ってくる。
あなた

(そっか、紫乃くんは
自分の気持ちを押し殺して、
私の意思を尊重するって
言ってくれてるんだ)

あなた

少し、時間をください

あなた

(考えよう、ちゃんと。
向き合おう、ふたりの気持ちに)

答えが決まっていないのに、
紫乃くんの手を握り返すことは
許されない気がして……。

私はただ、彼の体温を感じていた。

***

告白の返事に悩むこと3日──。

時刻は午後9時。

上がりの時間まで、あと1時間を切っていた。
あなた

店長、遅いね。
花の配達に時間かかってるのかな?
8時には戻るって言ってたのにね

私は店内を掃きながら、
紫乃くんに話しかける。

紫乃くんはレジチェックといって、
お金の過不足がないかを確認する
作業をしていた。
常葉 紫乃
常葉 紫乃
渋滞でしょ
あなた

そうだといいんだけど……

なんとなく心配になって、
私はお店の外に出た。

それから店長の車を探していると、
ふと目の前に誰かが立つ。
あなた

え……

不審者
不審者
どうもー
にっこりと笑ったサングラスの男。

突然の登場に言葉を失っていると、
いきなり腕を掴まれた。
あなた

嫌! 誰か、放してっ

常葉 紫乃
常葉 紫乃
あなた!
あんた、なにしてんの?
さっさと、その手放しなよ
紫乃くんが男の腕を捻り上げる。
不審者
不審者
くっ
常葉 紫乃
常葉 紫乃
あなた、こっち!
紫乃くんが私を抱き寄せ、
そのまま背に庇った。
あなた

し、紫乃くんっ。
なんなんだろう、この人!

常葉 紫乃
常葉 紫乃
俺が知るわけないでしょ。
でも、不審者であることは
間違いない
あなた

そ、そうだよね

カタカタと身体が震える。

そんな私に気づいてか、
紫乃くんは不審者を見たまま言う。
常葉 紫乃
常葉 紫乃
大丈夫だから。
あなたは警察呼んで
あなた

紫乃くんはどうするの?

常葉 紫乃
常葉 紫乃
あなたが電話し終えるまで、
こいつを捕まえとく
あなた

そんなの危ないよ!

常葉 紫乃
常葉 紫乃
いいから、言ったとおりにして。
危なくても、俺にはあんたを
守る責任があんの
あなた

え……?

常葉 紫乃
常葉 紫乃
あんたが俺と店長どっちを
選ぶかはわかんないけど、
今はまだ、彼氏だから
あなた

……!

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