2日後──。
私は紫乃くんの初出勤日に
同じシフトに入ったのだけれど……。
***
──1時間後。
紫乃くんがため息をつきながら、
服の袖で私の右頬を拭う。
***
──さらに2時間後。
項垂れていると、
脳天に軽く拳骨が落ちてきた。
紫乃くんは勢いよくお店を飛び出していく。
それから10分後、
汗だくの紫乃くんが帰ってきた。
私は自分の水筒のお茶を
紫乃くんに差し出しながら謝る。
お茶をゴクゴク飲んだ紫乃くんは、
私を見て、本日何度目かわからない
ため息をこぼした。
紫乃くんの意味深な物言い。
さすがに勘づかれたのではと、
びくびくしながら店長を見ると……。
よく店長目当ての女性客が
お店に来るのだが、
その好意にも気づいていないくらいだ。
***
次の日は休日だった。
今日はバイトがないので、
紗枝の家に遊びに来ている。
亜子は彼氏とデートで、
来れないらしく、紗枝とふたりで
話していたのだけれど……。
適当な返事をしながら思い返すのは、
ここに至るまでの経緯。
紗枝のお兄さんも、
部屋で男友達数人と遊んでいたらしく、
せっかくだからと合流することになり……。
さっきから、誰にでも吐いているだろう
軽々しい言葉を私は曖昧な笑みで
受け流している。
話が右耳から左耳へと流れていく。
知らないバンド、おしゃれなお店の話……。
私はバイトばかりしているから、
テレビは見ないし、流行にも疎い。
はあ、とため息が出てしまう。
私は疲れを笑顔の奥に隠し、
早くこの時間が終わることばかり考えていた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。