第7話

7話 他の男の子と違う
2日後──。

私は紫乃くんの初出勤日に
同じシフトに入ったのだけれど……。
常葉 紫乃
常葉 紫乃
会計、お客様待たせてる。
俺に代わって
あなた

え、ごめん!

***

──1時間後。
常葉 紫乃
常葉 紫乃
顔、土ついてる
あなた

え、嘘! どこ??

紫乃くんがため息をつきながら、
服の袖で私の右頬を拭う。
常葉 紫乃
常葉 紫乃
店頭に立つんだから、
常に身だしなみくらい注意しなよ
あなた

うっ……はい……

***

──さらに2時間後。
あなた

大変っ、さっきのお客様、
レジにお財布忘れてってる!

常葉 紫乃
常葉 紫乃
はあ!?
あなた

どうしよう、私のせいだ。
お客様が忘れ物してないか、
ちゃんと確認すればよかった……

あなた

(今頃、困ってるよね……) 

項垂れていると、
脳天に軽く拳骨が落ちてきた。
常葉 紫乃
常葉 紫乃
俺が届けてくるから
あなた

え──

常葉 紫乃
常葉 紫乃
あなたは店長に
このこと伝えといて!
紫乃くんは勢いよくお店を飛び出していく。

それから10分後、
汗だくの紫乃くんが帰ってきた。
草間 樹
草間 樹
紫乃くん、おかえり。
わざわざ届けに行ってくれて、
ありがとう。お客様には会えた?
常葉 紫乃
常葉 紫乃
はい、なんとか
あなた

紫乃くん、本当にごめんね。
私、先輩なのに……

私は自分の水筒のお茶を
紫乃くんに差し出しながら謝る。

お茶をゴクゴク飲んだ紫乃くんは、
私を見て、本日何度目かわからない
ため息をこぼした。
常葉 紫乃
常葉 紫乃
先輩とか、後輩とか、
関係ないから
あなた

でも、私が助けてあげなきゃなのに、
私……逆に助けられてばかりで……

常葉 紫乃
常葉 紫乃
俺たちは、
それでいいんじゃない?
あなた

え?

常葉 紫乃
常葉 紫乃
鈍いな。助けるのが
当然の関係ってことでしょ
あなた

あ……!

あなた

(そういうこと!
恋人同士だから……って、
納得してる場合じゃないっ。
店長の前でなんてことを……!)

紫乃くんの意味深な物言い。

さすがに勘づかれたのではと、
びくびくしながら店長を見ると……。
草間 樹
草間 樹
そうだね、俺たちは大事な
お店の仲間なんだから、
支え合うのは当たり前だよ
あなた

(忘れてたー!
店長、天然なんだったー!)

よく店長目当ての女性客が
お店に来るのだが、
その好意にも気づいていないくらいだ。
あなた

(今はその天然ぶりに、
感謝しよう)

***

次の日は休日だった。

今日はバイトがないので、
紗枝の家に遊びに来ている。

亜子は彼氏とデートで、
来れないらしく、紗枝とふたりで
話していたのだけれど……。
紗枝の兄の友人1
紗枝の兄の友人1
いやー、本当に可愛いね。
高校生って、大学生の男は
恋愛対象になる?
あなた

人によるかと……

あなた

(ああ、帰りたいかも……)

適当な返事をしながら思い返すのは、
ここに至るまでの経緯。

紗枝のお兄さんも、
部屋で男友達数人と遊んでいたらしく、
せっかくだからと合流することになり……。
紗枝の兄の友人2
紗枝の兄の友人2
あなたちゃんみたいな清楚な子、
俺タイプ!
さっきから、誰にでも吐いているだろう
軽々しい言葉を私は曖昧な笑みで
受け流している。
紗枝の兄の友人1
紗枝の兄の友人1
そうだ、今度『Passion Bombパッション ボム』の
ライブに行くんだけど、一緒にどう?
あなた

パ、パッション……なんですか?

紗枝の兄の友人2
紗枝の兄の友人2
今、人気のバンドだよ。
でもさ、それよりおいしいもの
食べたくない?
あなた

おいしいもの、ですか

紗枝の兄の友人2
紗枝の兄の友人2
そう! 駅前に『Jewelry timeジュエリータイム』って
パンケーキの店が出来て、
結構有名なんだ。他にも……
話が右耳から左耳へと流れていく。

知らないバンド、おしゃれなお店の話……。

私はバイトばかりしているから、
テレビは見ないし、流行にも疎い。
あなた

(私、お兄さんの友達が言う
場所に行っても、
ちっとも楽しめないだろうな)

はあ、とため息が出てしまう。
あなた

(紫乃くんと話してるときは、
いつも楽しいのに。
同じ男の子と話すでも、
こんなにも違うんだ)

私は疲れを笑顔の奥に隠し、
早くこの時間が終わることばかり考えていた。