第6話

6話 バイトも一緒!?
あなた

ちょっ、困るよ!
奥に店長もいるし、
お客さんにこんなところ
見られたら……

あなた

(クビになる!)

常葉 紫乃
常葉 紫乃
そーだね。嫌なら、
さっさと俺の名前、呼びなよ
あなた

意地悪!

常葉 紫乃
常葉 紫乃
はいはい、ほら早く
あなた

(ええい、どうにでもなれ!)

あなた

し、紫乃くん!

常葉 紫乃
常葉 紫乃
──!
勢いで名前を口にすると、
常葉くん──紫乃くんが面食らった顔をした。

それから少しして、
私をぎゅうっと強く抱きしめる。
あなた

きゃっ、紫乃くん!?

常葉 紫乃
常葉 紫乃
破壊力、すご
紫乃くんが私の首筋に顔を埋め、
動かなくなった。
あなた

本当に、もうそろそろ
離れて~っ

常葉 紫乃
常葉 紫乃
じゃ、もう1回呼んで
あなた

え?

常葉 紫乃
常葉 紫乃
名前。それで我慢する
あなた

(我慢って……なんか可愛いかも)

私は紫乃くんが見てないのをいいことに、
こっそり笑う。

そして、静かにその名を紡ぐ。
あなた

紫乃くん

常葉 紫乃
常葉 紫乃
……ん。
『くん』は余計だけど、
まあいいや。解放してあげる
言葉通り、紫乃くんは私を離した。
草間 樹
草間 樹
あなたちゃん、
これ貼っておいてくれる?
……って、紫乃くん?
あなた

(あっぶな!)

あなた

(一足遅かったら、
紫乃くんに抱きしめられてるところを
店長に見られるところだった!)

常連の紫乃くんとは、
店長も面識がある。

でも、私の彼氏になったことは
知らない。
あなた

(ああっ、バイト先に彼氏がいるって、
かなり気まずいよ!)

草間 樹
草間 樹
また来てくれたんだね。
いらっしゃいませ
奥から出てきた店長が、
紫乃くんに軽く頭を下げる。
常葉 紫乃
常葉 紫乃
あ、ども……
会釈を返した紫乃くんが、
店長の手にあるチラシのようなものを凝視する。
常葉 紫乃
常葉 紫乃
それ、バイトの募集ですか?
草間 樹
草間 樹
ああ、これ。実はバイトの子が
ひとり辞めちゃうから、急募なんだ
あなた

ああ、ゆきさんですか。
引っ越しちゃうんですよね

ゆきさんは、私がここで働く前からいる
バイトの先輩だ。

このたび結婚して、
引っ越すことになったため、
寂しいけれど明日で退職する。
草間 樹
草間 樹
ネットで募集はかけてるんだけど、
一応店にも張り紙出して
おこうかなって
常葉 紫乃
常葉 紫乃
それ、俺立候補します
私と店長は同時に「えっ」と驚く。
草間 樹
草間 樹
紫乃くんは花に詳しいし、
俺としては大歓迎だよ!
でも、本当にいいの?
常葉 紫乃
常葉 紫乃
はい。好きなものがそばに
〝いる〟と、安心できるんで
意味深にそう言って、
紫乃くんがちらりと私に視線を寄越した。
あなた

なっ

あなた

(それって、花のこと?
それとも……私のことも含まれてる?
なんて、自意識過剰すぎるかな)

草間 樹
草間 樹
それじゃあ、急なんだけど明後日から
お願いできないかな?
常葉 紫乃
常葉 紫乃
いいですけど、
面接とかは……
草間 樹
草間 樹
紫乃くんなら即採用だよ
あなた

(あれよあれよといううちに、
紫乃くんの採用が決まった……)

常葉 紫乃
常葉 紫乃
そーいうわけで、
よろしく、先輩
あなた

はい……

あなた

(なんでだろう、
『先輩』が嫌味に聞こえる)

すると案の定、
紫乃くんは私の耳元で囁く。
常葉 紫乃
常葉 紫乃
先輩って呼べるほど
仕事できるのかわからないけど。
あなた、とろそうだし
あなた

(ひどい!)

頬を膨らませると、
紫乃くんが指で突いてきた。
あなた

(それにしても、
紫乃くんとバイトかー……)

とくとくと鼓動が早まる。
あなた

(ちょっと楽しみだな)