※ツイステの二次創作です。女の子です。
無事に元の世界に戻ってきてからはや1ヶ月。
戻ってきた時、元の世界の時間は進んでいなかった。
何もなかったように一日がスタートした。
でも私は確かにその間に異世界で過ごしていたのだ。
久しぶりに乗る電車は落ち着かないし、学校もすごく疲れる。
友達とまた会えるのはすごく嬉しかったけど、みんながいないとやはり何かが物足りない。
心にぽっかり穴が空いて満たされない。安心しない。
何かしらアクシデントが起こるあの日々が恋しい。
隣からグリムの声がしないのは寂しい。
元の世界に戻ってきたかったのに、戻ってこれたのになんて自分はわがままなんだろう。
薄暗い部屋のベッドの上で1人ため息をこぼす。
1番困ったのはやはり勉強面だ。
あっちでは必死で魔法を学んだ。
いきなりあんな世界に飛ばされたもんだから人より2倍、3倍頑張ったつもりだ。
でもここではそんなもの必要ない。
あの知識はなんの役にも立たない。
ここで必要なのは一般的な学問。
しかしあっちに居れば必然的に忘れていく。
だから今学校の勉強についていけてない。
急に変わる環境に身体もついていけてない。
1番、心がついていけてない。
もう、ボロボロだ。
『疲れたよ…』
視界が滲む。
(わがままだよね…)
私は声を押し殺して泣いた。
わがままだってわかってる。十分わかってる。
でも願ってしまう。
また会えたらと。
あわよくば、連れて帰ってくれないかと。
『私はここだよ…』
『会いたいよっ……』
目からこぼれる涙が止まらない。
『迎えに…来てよ……』
・
・
・
『…ん……』
いつの間にか眠ってみたいだ。星が輝いている。
おまけに外から話し声が聞こえる。
(言い争ってる…?)
「あっぶねぇ………ん………けっ」
「……なんだっ、……のか」
いつもなら確認しに行ったりしないのにこの時はなんだか気になってベランダへ向かった。
窓を開けると涼しい夜風が部屋に吹き込む。
そっとスリッパを履き、空を見上げる。
『えっっ……?』
一気に目が覚めた。
そこにはありえない者が居たのだ。
絶対に有り得ない、何かの間違いだ。
そう、心のどこかで誰かが叫ぶ。
もう一生戻って来られなくなる、と。
でも私は叫んだ。声を出さずにはいられなかった。
夜の空に浮かぶ2人と1匹の影。
聞き覚えのある声。暴れるホウキ。
『エースっ、デュースっ、グリムっっ!!』
ベランダに手を着いて声の限り叫んだ。
彼らの口喧嘩はスっと収まった。
そして、確かに、目が合った。
月光に照らされた彼らと。
私の心臓はドキドキと音を立て、手は震えている。
どうして?
これが嘘で、消えてしまったら、
なんて考えがあるから?
私がそんなことを思っている間に、彼らは暴れるホウキを何とか操ってこちらへやって来た。
エース「ははっ、いっつも計画通りになんねーの」
デュース「また先に見つかったな。」
グリム「全然変わってねーんだゾ」
『ははは…当たり前じゃん…』
気がつけば私は静かに涙を流して笑っていた。
『私を誰だと思ってんの…』
声は震えている。
「伝説の最強の監督生、でしょ/だろ/なんだゾ」
『大当たり…そんで、ぴったり…』
そっちこそ相変わらずで笑ってしまった。
エースがふっとベランダに降り立った。
(いつの間にそんなにホウキの扱い上手くなったの…)
エースに続いてデュースとグリムもホウキを降りる。
エース「朗報だぜ、監督生。」
エース「もしかしたら伝説じゃ無くなるかも。」
『え?』
グリム「俺たちのこと呼んでたの、知ってるんだゾ」
私はなんのことか分からず、目をぱちくりさせる。
デュース「戻れるぞ、監督生。」
『ど、どこにっ…?』
本当は戻れる場所がどこかなんてわかってるのに。
ひとつしかないというのに。
デュース「そりゃ、もちろん、ツイステッドワンダーランドだ。」
エース「どうする?」
なんていつもの意地悪な顔で覗いてくる。
私の答えなんて分かってるくせに。
『そんなの決まってんじゃん。行く。』
デュース「決まりだな。」
私はエースのホウキにまたがった。
体が浮くこの感覚は久しぶりだ。
エースはベランダを蹴って言った。
エース「よし、行こうぜ、ワンダーランド」
グリム「この世界とはおサラバなんだゾ〜!」
デュース「ガンガン行くぞ!!!」
なんて言うからみんなとばし始める。
空にひとりぼっちで浮かぶ月に背を向けて。
夜風が気持ちいい。
夜がこんなに爽やかに感じるのはいつぶりだろう。
心が軽い。
エースの背中に顔を埋めた後、両隣のグリムとデュースを見て微笑んだ。
『マブ、集合だね』
グリム「おせーんだゾ」
エース「さすがマブだよな。すぐお前の場所わかったもん。」
『君たちさぁ、私のこと大好きだよね。』
エース「…今回は認める。」
デュース「だな。」
グリム「うぬぅ……」
デュース「これからはずっと一緒だぞ。」
『うんっ、約束ね。』
月の輝くある夜、
ある一軒家のある部屋の窓は開いたまま。
カーテンは外に飛び出したままなびいている。
そして、1人の少女が
消えた。
ベランダのスリッパは無造作に脱ぎ捨てられていた。
彼女の行方はこの世界の者には分からない。
分かることはない。
なぜなら、
もうこの世界には居ないから。
彼女は生まれ育ったこの世界を捨てた。
ねじれた世界を選んだ。
もう二度と帰って来れないと知った上で。
でも、彼女はその選択が良かったのだ。
後悔はない。
行こうぜ、ワンダーランド。
彼女はだんだんと増えていく星を眺めながら、
そう呟いた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!