第23話

vol.21 鍵と錠 マレウス視点
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2022/02/01 14:15
マレウス・ドラコニア
マレウス・ドラコニア
(まさか、ナイトレイブンカレッジの敷地内で“殺人”が起きるとはな。そのせいか、この時間帯になっても教師達が学校にまだ残っている)
夜になり、僕はオンボロ寮へと向かっていた。
事件現場とは別の場所だが、オンボロ寮は森に近い。
おまけに、新しい監督生も魔法は使えない。
無事なのだろうか。
マレウス・ドラコニア
マレウス・ドラコニア
(ん?……今はまだ八時前。この時間帯なら、部屋の明かりがついているはずなのに)
オンボロ寮の玄関前に立ち、恐る恐るノックをするが、返事どころか音がしない。
おまけに、人の気配もしなかった。
マレウス・ドラコニア
マレウス・ドラコニア
(誰もいない、のか?だが、何処に出歩いていると言うんだ?)
裏に回って上を見上げると、二階の奥の部屋の窓が開いているのに気付く。胸騒ぎがして空中に浮かび、窓のそばに寄ったが──────────
マレウス・ドラコニア
マレウス・ドラコニア
……!これは一体……
部屋には誰も居なかったが、中は散乱していてベッドや床は血塗れだった。この部屋で何があったのだろうか。カナデは何処にいるのだろうか。
マレウス・ドラコニア
マレウス・ドラコニア
(グリムの姿も無いな)
カナデと最後に会ったのはこの間の夕方頃。
“近付くな”と拒絶された、あの日だ。
顔色は悪かったが、最初は平然と振舞っていたカナデ。だが、少しすると突然、腹を抑えて苦痛の表情を浮かべオンボロ寮の中へと走って行った。
マレウス・ドラコニア
マレウス・ドラコニア
(ただの腹痛……では、なさそうだったな)
窓を閉めたあと地面におりて、学校の方へと歩いて行く。部屋には大きな爪痕があったが、魔法を使った形跡はなかった。だとしたら何者が、何の目的で?
いや、もしかしたら……
マレウス・ドラコニア
マレウス・ドラコニア
(カナデが“自分で”二階から?だが、どうやって……。匂いからしてカナデの血なのは間違いない。だとしたら、血の量から察するに相当な怪我を負っていた筈だ。それこそ人間でいえば瀕死の。そんな状態で一人二階から降りられるのか?しかも、仮に降りられたとして何を使った?外壁に血が付いていても可笑しくないはずなのに、外壁は綺麗なままだった)
そんな時だった。茂みの方からカサッと、微かに音がして僕は横を向いた。
一瞬だったが、“白い髪”が木の間から見えた。
名前を呼ぼうとするも、同時に「探したぞマレウス」と、名前を呼ばれる。
リリア・ヴァンルージュ
リリア・ヴァンルージュ
やはりここにおったか。言ったであろう?危ないから学校が終わったら夕方から夜は暫く寮内で待機じゃ。おぬしなら相手を返り討ちに出来るかもしれんから、危ないのは相手の方じゃが……
マレウス・ドラコニア
マレウス・ドラコニア
……
リリア・ヴァンルージュ
リリア・ヴァンルージュ
む?どうかしたか?
茂みの方なんか見つめて
マレウス・ドラコニア
マレウス・ドラコニア
あそこにカナデがいた気がしたのだが……
リリア・ヴァンルージュ
リリア・ヴァンルージュ
何故カナデが茂みにいると?そう言えば、オンボロ寮が妙に静かじゃな。
暗いし……何かあったのか?
リリアの問いに答えることは出来ず、僕は考えるように俯いた。
マレウス・ドラコニア
マレウス・ドラコニア
……リリアの目には、あの娘はどう映っていた?
リリア・ヴァンルージュ
リリア・ヴァンルージュ
なんじゃいきなり。どうと言われても、まだ一度しか話しておらんしな。あぁ……でも、哀しい目をする娘だとは思ったな
僕が「哀しい目?」と聞き返すと、リリアは「うむ」と、笑顔で頷いた。
リリア・ヴァンルージュ
リリア・ヴァンルージュ
なんというか……“諦め”にも近い、暗く、鋭く、冷たい目をしていた。話はするものの、“見えない壁”があるのじゃ。あの娘からは“警戒”や“拒絶”と言った眼差しを向けられた気がするのう。本人は無意識かもしれんがな。目は口ほどに物を言うとはよく言ったもんじゃ
リリアに言われ、カナデに言われた言葉を思い出した。
────────“どうせなら、アンタみたいな奴になりたかったな”。
あの日、カナデは確かにそう言った。
僅かに微笑んではいたが、リリアの言う通り“哀しい目”をしていたかもしれない。
その後は直ぐに誤魔化されてしまったし、今思い返せばその時、踏み込んでは行けない“一線”がハッキリと引かれ、見えた気がする。
マレウス・ドラコニア
マレウス・ドラコニア
“拒絶”、か
僕みたいになりたかったとは、どういうことだろうか。単純に、高い魔力が欲しいとか、魔法が使えるようになりたいとか、王族になりたいとか、カナデが言っていたのはそういう“なりたい”ではなかったように思える。
“拒絶”だって、僕やリリア達を個人で受け入れないと言うよりかは、自分のテリトリーに入って欲しくない、探られたくないと言った拒み方がしっくりくるかもしれない。
マレウス・ドラコニア
マレウス・ドラコニア
僕は、この場所で何度かあの娘と話をしたが……何時も、何処か濁した話し方をしていた
リリア・ヴァンルージュ
リリア・ヴァンルージュ
ユウと比べるのもなんだが……ユウはわしらから見ても“人の子”。それも随分お人好しで、よく笑い、振り回されても友人を見捨てるどころかたまに出る毒舌っぷりで喝をいれ、手を差し伸べる度胸のある若者じゃった。そのおかげで改心した者が何人もいる。勿論、あやつの力だけではないと思うが、ユウが来てから生徒が何人か変わったのは確かじゃ
マレウス・ドラコニア
マレウス・ドラコニア
そうだな。あの人の子はそういう奴だった。僕の正体を知っても、怖がらずに“友達”でいてくれたしな
リリア・ヴァンルージュ
リリア・ヴァンルージュ
そんなユウに比べ、新しく現れた監督生はまるで真逆じゃ。何処と無く周りの者達に心を閉ざしている気がする。
長年生きたわしの勘ではあるが……ユウがわしらを救い、変える“鍵”としてナイトレイブンカレッジに来たのならば、カナデは自身を救い、変える鍵を探す“錠”なのではないか?
あくまで勘じゃが
……今回の事件はカナデと何らかの関係があるのだろうか。カナデが“錠”ならば、“鍵”は何だ。何処にあるのだろうか。カナデは何を悩んでいて、僕達は何からカナデを救えばいい?分からないことだらけだ。
マレウス・ドラコニア
マレウス・ドラコニア
(さっきの白い髪……幻でなければカナデは生きているはずだ。なら、話を聞かねば)
マレウス・ドラコニア
マレウス・ドラコニア
リリア、急いで学校に向かうぞ
リリア・ヴァンルージュ
リリア・ヴァンルージュ
?うむ、分かった

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