クルーウェル先生が向かったのは、空き教室。鍵を閉めると、ソファに子供を座らせ、被せていた上着をとった。
子供は魔法で身動き出来ずにいたが、“右目”を見て俺達はハッと息をのんだ。
クルーウェル先生は敵意剥き出しの子供カナデを立ったまま見下ろし、困った表情で溜息をついた。
俺が「そもそもお前のせいじゃね?」と更なる追い打ちをかけると、グリムが「くっそぅ……仕方ねぇんだゾ」と折れた。
子供カナデは首を横に振り、やはり記憶までもが子供の頃に戻ったのだと察する。
デュースが「余計な嘘をつくな」と、グリムに拳骨を食らわせてからゆっくりとカナデの前にしゃがむ。
そして、「僕達はお前に危害を加えたりしない。だから、赫子をだすのは控えて欲しいんだ」とぎこちない笑みを浮かべ、子供カナデは警戒したままではあったが目の色が元に戻る。
クルーウェル先生も拘束魔法を解き、子供カナデは自分の手を試しに動かした。
俺が聞くと、子供カナデは小さく頷いた。
しかし、可笑しい。子供とは言え、目の前にいるカナデは小一か小二ぐらいだ。
本来なら言葉を話し、会話が可能なはず。
子供になる前のカナデは普通に話をしていたし、病気とかではなさそうだが、何故子供カナデは単語すら言えないのだろう。
どうやら、デュースやグリム、クルーウェル先生もそこに気付いて疑問を抱いているみたいだ。
初めて知った事実に俺達は驚いた。
クルーウェル先生曰く、基礎的な読み書きを教える為に放課後に特別授業を行っていたと言うが、俺達は「それでか」と、カナデが放課後帰らずに居なくなる理由に納得した。
ジッと子供カナデを見つめていると、子供カナデが再び口を開いて話し出す。
暗号を解いた謎の達成感、でも感じたのかデュースとグリムは「意味が分かった!」と喜んでいた。
なんつーか、相変わらず単純な奴等だ。
クルーウェル先生に言われて俺達は「え”!?」と声を揃えた。俺達で面倒を見ると言うことは、授業中も連れて行かないと行けないのだろうか。
それだけ言い残してクルーウェル先生は空き教室から出ていき、俺達は困惑するカナデを見て頭を悩ませた。
こうして俺達は子供カナデの面倒を暫く見ることになった。刺激しないようにとは言うが、この学校の生徒が生徒だからな……正直、何も無いで過ごせるとは思っていない。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。