『どうして……どうして裏切ったの?』
『喰種は、生きてて良いのかな。喰種の私は───────』
『クソッ……!なんで、なんでこうなるんだよ……!』
『カナデ───────アヤトのこと、頼んだよ』
頭の中で色んな記憶が入り交じり、ハッと目を覚ます。学校で着せ替え人形にされた後、普通にオンボロ寮に帰り、ユウが置いていった私服に着替えてから疲れたので寝ていたのだった。
それだけ言ってオンボロ寮の外に出る。外は既に暗く、人気もない。気候も涼しいし、一人は落ち着く。
頭を抱えながら溜息をつくと、人の気配がして顔を上げる。すると、道の先に一つの人影が見えた。
しかもツノが生えている。
何故か疑問形で答えるが、このツノ男は誰だろう。制服を着ているので学校の生徒なのは間違いないようだが。
この男が三年だと察し、咄嗟にカタコトの敬語を使う。獣耳生徒も学校に居たが、次はツノか。
本当に色んな奴がいるもんだ。
取り敢えず、“人でない”生徒も居るのは今日学校に行って何となく分かってはいた。
初対面なのに、この初対面じゃなさげなノリには今日だけで多少慣れたのであまり驚きはしない。
なので「まぁ……そりゃあね?」と普段の口調で返してみる。
つまり、見た目が白いせいでちょっと人と違う様に感じるという意味だろう。元いた世界でも、アルビノに間違われることがあった。
オマケに眼帯で隠しているとはいえ、今日何度も言われたとおり、瞳の色が違うオッドアイ。そんな私の見た目を珍しがって見てくる輩も居る。中には、“天使”だなんて気味の悪い単語を口に出すやつも居た。
目の前のソイツは、軽く微笑むと「では、僕はそろそろ帰る。会うことがあればまた学校でな」と言って去っていった。
相手も人じゃないからか、私に対して違和感を感じたみたいだが、今みたいに人として扱われ、人として自然に話しをするのも正体がバレないうちだけ。もしも正体がバレたらどうしようか。
だからといって、あの学校の連中を食う気にもなれない。情があるわけじゃない。ただ、本当に……単純に食う気になれないだけなのだ。
そうなると、元の世界に戻る方法を探しながら逃げ隠れするしかないのだろうか。
けどそうなると食糧の問題が出てくる。共食いが出来ないわけだから、今まで通り人を喰らうしかない。結局、喰種みたいな化物はどこに行っても、どの世界に居ても、ただの人を喰らう化物でしかないのだ。この世界にはモンスターは普通に居る。でも、その中でも私達の様な喰種はやはり人間の天敵になるだろう。消えないその事実だけが、深く濃く脳裏の中を何度も何度も何度も巡り、同じ事を考えてしまう。考えたってキリがないというのに。
───────夜空を見上げ、小さく呟いた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!