第10話

vol.8 化物と夜空
1,294
2022/01/15 03:24
『どうして……どうして裏切ったの?』



『喰種は、生きてて良いのかな。喰種の私は───────』



『クソッ……!なんで、なんでこうなるんだよ……!』




『カナデ───────アヤトのこと、頼んだよ』
頭の中で色んな記憶が入り交じり、ハッと目を覚ます。学校で着せ替え人形にされた後、普通にオンボロ寮に帰り、ユウが置いていった私服に着替えてから疲れたので寝ていたのだった。
月峯 奏
月峯 奏
くそっ……胸糞悪い夢だ
グリム
グリム
大丈夫かぁー?うなされてたぞ?
月峯 奏
月峯 奏
……気晴らしに外行ってくる
それだけ言ってオンボロ寮の外に出る。外は既に暗く、人気もない。気候も涼しいし、一人は落ち着く。
月峯 奏
月峯 奏
(この世界に来てからは調子を狂わされてばかりだな。日もそんなに経っていないっつーのに)
頭を抱えながら溜息をつくと、人の気配がして顔を上げる。すると、道の先に一つの人影が見えた。
しかもツノが生えている。
マレウス・ドラコニア
マレウス・ドラコニア
ん?随分と真っ白なゴーストかと思ったが、人だったか
月峯 奏
月峯 奏
(……誰)
マレウス・ドラコニア
マレウス・ドラコニア
お前がオンボロ寮の新しい監督生か?
月峯 奏
月峯 奏
一応……?
何故か疑問形で答えるが、このツノ男は誰だろう。制服を着ているので学校の生徒なのは間違いないようだが。
マレウス・ドラコニア
マレウス・ドラコニア
今日三年の廊下を歩いていただろう。目立っていたぞ。二つの意味で
月峯 奏
月峯 奏
見た目の色と女子がいるって意味……デスヨネ?
この男が三年だと察し、咄嗟にカタコトの敬語を使う。獣耳生徒も学校に居たが、次はツノか。
本当に色んな奴がいるもんだ。
取り敢えず、“人でない”生徒も居るのは今日学校に行って何となく分かってはいた。
月峯 奏
月峯 奏
それで、オンボロ寮になにか?
マレウス・ドラコニア
マレウス・ドラコニア
いや、ただの散歩だ。お前はこんな夜更けに外でボーッとしてどうした?
前にオンボロ寮に居た人の子同様、異世界から来たと噂になっていたが……慣れない場所に来て疲れたか?
初対面なのに、この初対面じゃなさげなノリには今日だけで多少慣れたのであまり驚きはしない。
なので「まぁ……そりゃあね?」と普段の口調で返してみる。
マレウス・ドラコニア
マレウス・ドラコニア
でも不思議だ。お前は……普通の人間とは違う何かを感じる。
視覚的なモノによるせいだろうか?
つまり、見た目が白いせいでちょっと人と違う様に感じるという意味だろう。元いた世界でも、アルビノに間違われることがあった。
オマケに眼帯で隠しているとはいえ、今日何度も言われたとおり、瞳の色が違うオッドアイ。そんな私の見た目を珍しがって見てくる輩も居る。中には、“天使”だなんて気味の悪い単語を口に出すやつも居た。
月峯 奏
月峯 奏
そうなんじゃない?デスカ
マレウス・ドラコニア
マレウス・ドラコニア
何故カタコト。別に無理して敬語で話さなくたっていい
月峯 奏
月峯 奏
ふーん?なら、タメ口で話させてもらうよ
マレウス・ドラコニア
マレウス・ドラコニア
あぁ。それより、お前の名はなんと言う?
月峯 奏
月峯 奏
名乗るならそっちから……って言いたいとこだけど、まぁいいや。名前は奏。月峯奏
マレウス・ドラコニア
マレウス・ドラコニア
カナデか。以前オンボロ寮に居た人の子は僕を渾名で呼んでいたが……お前も好きに呼ぶといい
月峯 奏
月峯 奏
はぁ?アンタは結局名乗んないのかよ……
マレウス・ドラコニア
マレウス・ドラコニア
僕の名前は学校内でその内知る事になるだろうからな。むしろ、今は知らなくてもいいんじゃないか?
目の前のソイツは、軽く微笑むと「では、僕はそろそろ帰る。会うことがあればまた学校でな」と言って去っていった。
月峯 奏
月峯 奏
何だったんだ
相手も人じゃないからか、私に対して違和感を感じたみたいだが、今みたいに人として扱われ、人として自然に話しをするのも正体がバレないうちだけ。もしも正体がバレたらどうしようか。
月峯 奏
月峯 奏
(この世界に捜査官は居ないし……バレたところで通報される心配もない。喰種は赫子か赫子から造られたクインケでしか倒せないわけだし)
だからといって、あの学校の連中を食う気にもなれない。情があるわけじゃない。ただ、本当に……単純に食う気になれないだけなのだ。
そうなると、元の世界に戻る方法を探しながら逃げ隠れするしかないのだろうか。
月峯 奏
月峯 奏
(でも、この世界に来たばっかの時も思ったけど……元の世界に戻る必要なんてあんのかな。捜査官も他の喰種もいないならこっちに居た方が……)
けどそうなると食糧の問題が出てくる。共食いが出来ないわけだから、今まで通り人を喰らうしかない。結局、喰種みたいな化物はどこに行っても、どの世界に居ても、ただの人を喰らう化物でしかないのだ。この世界にはモンスターは普通に居る。でも、その中でも私達の様な喰種はやはり人間の天敵になるだろう。消えないその事実だけが、深く濃く脳裏の中を何度も何度も何度も巡り、同じ事を考えてしまう。考えたってキリがないというのに。
月峯 奏
月峯 奏
なんで、喰種化物なんだろうな
───────夜空を見上げ、小さく呟いた。

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