次の日になり、体力育成の授業を行う。
唯一の女子ということもあり、着替えるなら空き教室で着替えろとクルーウェルセンセーに言われ、空き教室で着替えた。
授業の最初にはランニングを行い、センセーに気付かれないようだべりながら走る。
私は喰種なので人間よりかは体力はある。なので特に苦では無いが、怪しまれない程度に加減はする。
体力育成の授業は何とか終え、その次の授業もまたその次の授業も、読めない文字につまづきながらもある程度こなす。ただ、昼食の時間は離れたくてもエース達から離れられない。無意識なのか知らないが、私のあとを追い掛けたりして、一緒に行動することがほとんどなのだ。まぁ、この世界やこの学校について右も左も分からないので、助かる面はあるが。
食堂に行き、長い列に並びながら少量ずつ料理を皿に盛る。喰種の私からすれば“甘い”が何かわからない分、人間が美味しそうに食べるケーキは気になったりする。これは確か、あんていくで知り合った霧嶋董香も同じだったはずだ。
正直あんまり食う気になれないが、渋々ケーキを皿に乗せ、エース達の居る席に戻る。
人間の肉、もしくは喰種の肉しか食べられないので、食えるものがかなり限られている。でも、いつかそれ以外の食べ物を心の底から“美味しい”って言ってみたい気持ちは少なからずある。
それで、純粋に普通に“食”とやらを楽しんでみたい。……なんて、らしくもなく思う。
食べ物の感想は本当に困る。味が分からないので、周りに合わせて同じ言葉を言うしかない。
でも中には隠し味やら、見た目に合わず、変わった味がするものもあるから感想がズレてしまう時がある。
それこそ、お菓子作りで間違えて砂糖ではなく塩を使ってしまったのに“甘い”と言ってしまう……みたいな。
それでも、私達が感じる砂糖の味と塩の味は違いがあるので、食べた時に“これクッキーだけど、砂糖を使った不味い味じゃなくて塩を使った料理と同じ不味い味がする”と気付くこともある。
話を聞くと、学校内にカフェを経営してる生徒が居るらしく、前に居た監督生はそのカフェで時折アルバイトをしていたらしい。
昔はあんていくという喫茶店でアルバイトをしており、私はカウンターの方でコーヒー作りや、サンドイッチ作りをしていた。笑うのが苦手だったからだ。
聞いてみると、グリムだけでなく、エースとデュースまでもが顔を顰めながら過去に起きた出来事を話す。話を聞く限り確かに面倒そうな輩ではある。
でも、私からすれば割と平気だったりする。何せ、似たような輩……それ以上にヤバいやつらは喰種の中にわんさかいるからだ。今はいないがヤモリとか、な。
あまり気は進まなかったが、ユウが残した僅かな現金を持って、放課後モストロ・ラウンジへと下見に行くことにした。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。