第30話

vol.28.思い出
902
2022/07/06 17:04
何事も起きていなかったかのように、ホームルームではハロウィーンウィークの話をされ、皆が喜び、騒いだ後に何時も通り授業を受ける。休む前のクルーウェルセンセーによる特別授業のお陰なのか、以前よりも読めて、書ける字が少し増えてきた。
エースやデュース、グリムも朝のぎこちない私への絡み方から、前みたいな自然とした絡み方へと戻っていった。
授業が終わり───────昼休み。
グリム
グリム
お腹減ったんだゾ〜
エース・トラッポラ
エース・トラッポラ
そーね。あー……でも、カナデは食えないんだっけ?人の食事
月峯 奏
月峯 奏
……まぁな
デュース・スペード
デュース・スペード
知らなかったとはいえ、今まで無理して合わせてくれてたんだよな。食べれないなら、わざわざ昼食に付き合わなくてもいいんだぞ?
月峯 奏
月峯 奏
平気。適当に水飲んで過ごすから。
食べられないって知ってくれただけでも大分楽になったし
デュース・スペード
デュース・スペード
てことは、前までこの時間が苦痛だったわけか……
エース・トラッポラ
エース・トラッポラ
つかさぁ、お前からすれば人間飯ってどんな味すんの?
月峯 奏
月峯 奏
知らない方がいいぞ。食欲失せるから。僕達は人間飯からは栄養を摂取出来ない上に、無理して腹の中に溜め込んだ状態でいると体調を崩す。だから、食べたあとはいつもお手洗で……後は言わなくても察してくれ
エース・トラッポラ
エース・トラッポラ
うわっ……通りでお前ご飯食べたらすぐトイレ行くわけだ。食べる度にそんなんじゃしんどすぎでしょ
グリム
グリム
でも、肉とかお菓子、ケーキとか美味しいもん沢山あるのに味が分からずに不味く感じるなんて勿体ないんだゾ。あんなにうめーのに
哀れんで同情して欲しい訳じゃないが、少しでも分かってくれる人間がいると、こんなにも過ごしやすくなるのだと実感した。
食べられるなら、私もその“美味しい味”を知ってみたいもんだが。
月峯 奏
月峯 奏
この話はあまりこういった場所でしない方がいいかもな。誰に聞かれてるか分からない。それと、グリム。オンボロ寮に戻るなら冷蔵庫開ける時は僕に言え。嫌なものを見たくないならな
グリム
グリム
う”……わ、分かったんだゾ
デュース・スペード
デュース・スペード
それなら、ジェイド・リーチ先輩から貰ったまかないは……
月峯 奏
月峯 奏
“僕の食糧”と別々にして冷蔵庫に入ってる。申し訳ないけど、食べるならグリムにあげようかと……。僕の食糧が入ってる冷蔵庫の食べ物は食べたくない、とか言われても困るけど、どうする?グリム
グリム
グリム
んなこと言われたら食うしかねぇんだゾ……。じゃねぇと勿体ねぇしな
エース・トラッポラ
エース・トラッポラ
けどそれって、トレイ先輩とかにお菓子やケーキもらってもお前独り占めして食えるってことじゃん。いーなー。一人で食うの大変だろうけど、お前なら結構食うし、ある意味良かったんじゃね?食費代もあんまかかんないし
エースがにんまり笑いながら言うと、グリムは確かに!とでも言うような顔をし、「全部オレ様の飯なんだゾ〜!」と嬉しそうにする。単純な奴だ。
単純で助かったけど。
エース・トラッポラ
エース・トラッポラ
気になってたんだけどさー、お前って何で“僕”って言うの?
月峯 奏
月峯 奏
え?
エース・トラッポラ
エース・トラッポラ
あ、駄目とかってわけじゃねーよ?このご時世、“性別”に関して悩み、考えてる奴もいるだろうし。ヴィル先輩も“アタシ”って言ってるし。ただ気になっただけ
デュース・スペード
デュース・スペード
シェーンハイト先輩が大分前に似た話をしてたような……まさか、カナデも実は……?
※ゲーム本編五章にて。
月峯 奏
月峯 奏
違う。性別は普通に女だと認識してるけど……ぶっちゃけどっちでもいいかな。
一時期は僕についての情報を“錯乱”させる為もあったけど、最初に覚えた一人称だからってのが一番の理由かな。
それに、性格だって……こんなんだし。表向き“私”とは言うけど
月峯 奏
月峯 奏
(あと心の中)
エース・トラッポラ
エース・トラッポラ
一番最初に覚えたってことは、小さい時からその一人称?
月峯 奏
月峯 奏
そうなるな。それを含めると、“僕”って一人称に慣れてしまったから使ってるってのもある
なんて話をしていると「お、丁度良かった」と声を掛けられ、横を向く。
こっちに向かって歩いてくるのは、トレイと初日に声を掛けてきたケイト?とかいう奴と赤髪の少年。
トレイ・クローバー
トレイ・クローバー
エース、デュース、放課後ハロウィーンについての話があるから、帰りのホームルームが終わったらすぐ寮に集まってくれ
エース・トラッポラ
エース・トラッポラ
はーい
デュース・スペード
デュース・スペード
了解っす
ケイト・ダイヤモンド
ケイト・ダイヤモンド
ん?あれ?カナデちゃんお久ー。体調大丈夫?
月峯 奏
月峯 奏
な、なんとか
リドル・ローズハート
リドル・ローズハート
君が監督生の……。会うのは今日が初めてだね。僕はハーツラビュル寮の寮長、二年のリドル・ローズハートだ。君の話はそこに居る二人から時々聞いているよ
月峯 奏
月峯 奏
ども……
リドル・ローズハート
リドル・ローズハート
にしても……新しい監督生は本当に女生徒なのだね
ケイト・ダイヤモンド
ケイト・ダイヤモンド
そう言えばヴィルくんがこの間カナデちゃん探してたよー。ドレスを着せるとか何とか言ってた
朝にヴィルと会って既に聞かされたと伝えると、「流石ヴィルくん。やること早い」とケイトが笑顔で言う。
デュース達は私が放課後にポムフィオーレ寮へ行くと知り、「がんば」と苦笑いする。
着せるとは言っていたが、姿勢などに対してヴィルのスパルタ指導があるかもしれないと考えるだけで疲れてくる。
月峯 奏
月峯 奏
(指導か……指導と言えば、アオギリの樹のタタラさんがたまに体術の指導してくれたな。昔の話だけど。あんていくに居た時は四方さんが指導してくれたが……どっちもスパルタだったな。生きるか死ぬかだから当然かもしれないけど)
四方さんも厳しかったが、喰種テロリストなだけあって、タタラさんの方が容赦なかった気もする。だけど、悪くない日もあるにはあった。例えば──────────
カナデ
カナデ
……っ!
考え事をしながら、フェイントからの蹴りを入れようとし、脚を片手でタタラさんに掴まれ、ぶら下がった状態になる。これが強敵との実戦なら骨を折られていただろう。
タタラ
タタラ
今日のお前、動きが鈍い。
さっきから何考えてる?
カナデ
カナデ
……何もねーデスヨ
タタラ
タタラ
嘘ついたら針千本飲ますよ
カナデ
カナデ
なんだよその拷問!?てかおろせよ
タタラ
タタラ
自分で振り切ってみろ
仕方なく空いてる足で攻撃してから、相手の腕を掴もうと考えるが、私は“別の物”に手を伸ばそうとして正面から床に叩き付けられ、腕をおさえられる。
タタラ
タタラ
……今、何しようとした?
言わないとめり込む
カナデ
カナデ
……“マスク”に手を伸ばした
タタラ
タタラ
お前は何がしたいんだ?大体察したが
カナデ
カナデ
単純に気になったんだよ。アンタの仮面の下。タタラ……さんは、僕の眼帯の下知ってんだろ。僕が隻眼の喰種だって知ってんのはアオギリの樹でアンタ含めた一部の喰種ぐらいだ
昔は“隻眼の王”の噂も耳にしていたので、面倒くさくないように隻眼なのを隠し、眼帯をしてるのは“目の色が違うから”と言う理由で誤魔化していた。
現在は“人工喰種”によって隻眼の喰種が増えたので、私も隠すことはなくなったが、大半の奴は私を人工喰種だと思っている。古くアオギリに所属してる奴なんかは、私が“一番最初の嘉納の実験台”と考えているみたいだ。それが狙いだったりする。そう思われた方が何かと楽なのだ。でも実際はエトと同じで“天然”だ。
カナデ
カナデ
ふびょーとーじゃない?タタラさんの素顔ぐらいみせてよ。アンタだけ僕の秘密知ってんのズルい
タタラ
タタラ
断る
カナデ
カナデ
即答かよ
タタラ
タタラ
知りたいなら……赫子を使わないで取ってみせろ
そんな感じのやり取りがあって、指導の際はタタラさんのマスクを取る目的で体術を使い、手合わせしていた。けれど、月日が経ち「無理に取るもんでもねぇか」と、私の関心が薄れていったある日のこと。
タタラ
タタラ
最近は真面目に体術に取り組んでいるみたいだな
カナデ
カナデ
まぁ、強くなって損は無いし
タタラ
タタラ
……もういいのか?
カナデ
カナデ
?何が?
タタラ
タタラ
いや、別に
後日、エトから話を聞くと「最近のカナデ、可愛げなくなった」とタタラさんが呟いていたらしい。あの人、可愛げとか求める喰種だったけ。なんて少し驚いたりもした。
月峯 奏
月峯 奏
(最後ら辺のページに描かれてるおまけ漫画かよ)
デュース・スペード
デュース・スペード
……デ、カナデ!
名前を呼ばれて我に返り、「どうした?ボーッとして。もう食べ終わったし教室に戻ろう」と言われる。知らぬうちにトレイ達は戻ったみたいだ。
月峯 奏
月峯 奏
(オークション、どうなったんだろ。アヤト達生きてっかな)
自分がツイステッドワンダーランドに来る前を思い出し、アオギリの樹がどうなったのか気になる反面、自分だけこんな場所で学校生活送ってていいのかと僅かながら罪悪感を感じた。

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