何事も起きていなかったかのように、ホームルームではハロウィーンウィークの話をされ、皆が喜び、騒いだ後に何時も通り授業を受ける。休む前のクルーウェルセンセーによる特別授業のお陰なのか、以前よりも読めて、書ける字が少し増えてきた。
エースやデュース、グリムも朝のぎこちない私への絡み方から、前みたいな自然とした絡み方へと戻っていった。
授業が終わり───────昼休み。
哀れんで同情して欲しい訳じゃないが、少しでも分かってくれる人間がいると、こんなにも過ごしやすくなるのだと実感した。
食べられるなら、私もその“美味しい味”を知ってみたいもんだが。
エースがにんまり笑いながら言うと、グリムは確かに!とでも言うような顔をし、「全部オレ様の飯なんだゾ〜!」と嬉しそうにする。単純な奴だ。
単純で助かったけど。
なんて話をしていると「お、丁度良かった」と声を掛けられ、横を向く。
こっちに向かって歩いてくるのは、トレイと初日に声を掛けてきたケイト?とかいう奴と赤髪の少年。
朝にヴィルと会って既に聞かされたと伝えると、「流石ヴィルくん。やること早い」とケイトが笑顔で言う。
デュース達は私が放課後にポムフィオーレ寮へ行くと知り、「がんば」と苦笑いする。
着せるとは言っていたが、姿勢などに対してヴィルのスパルタ指導があるかもしれないと考えるだけで疲れてくる。
四方さんも厳しかったが、喰種テロリストなだけあって、タタラさんの方が容赦なかった気もする。だけど、悪くない日もあるにはあった。例えば──────────
考え事をしながら、フェイントからの蹴りを入れようとし、脚を片手でタタラさんに掴まれ、ぶら下がった状態になる。これが強敵との実戦なら骨を折られていただろう。
仕方なく空いてる足で攻撃してから、相手の腕を掴もうと考えるが、私は“別の物”に手を伸ばそうとして正面から床に叩き付けられ、腕をおさえられる。
昔は“隻眼の王”の噂も耳にしていたので、面倒くさくないように隻眼なのを隠し、眼帯をしてるのは“目の色が違うから”と言う理由で誤魔化していた。
現在は“人工喰種”によって隻眼の喰種が増えたので、私も隠すことはなくなったが、大半の奴は私を人工喰種だと思っている。古くアオギリに所属してる奴なんかは、私が“一番最初の嘉納の実験台”と考えているみたいだ。それが狙いだったりする。そう思われた方が何かと楽なのだ。でも実際はエトと同じで“天然”だ。
そんな感じのやり取りがあって、指導の際はタタラさんのマスクを取る目的で体術を使い、手合わせしていた。けれど、月日が経ち「無理に取るもんでもねぇか」と、私の関心が薄れていったある日のこと。
後日、エトから話を聞くと「最近のカナデ、可愛げなくなった」とタタラさんが呟いていたらしい。あの人、可愛げとか求める喰種だったけ。なんて少し驚いたりもした。
名前を呼ばれて我に返り、「どうした?ボーッとして。もう食べ終わったし教室に戻ろう」と言われる。知らぬうちにトレイ達は戻ったみたいだ。
自分がツイステッドワンダーランドに来る前を思い出し、アオギリの樹がどうなったのか気になる反面、自分だけこんな場所で学校生活送ってていいのかと僅かながら罪悪感を感じた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!