三時間目、四時間目と授業が終わってからグリムに食堂へと連れて行かれる。
私は喰種なので人の食事など出来ないが、“フリ”ぐらいはしといた方がいいだろう。
グリムの欲しがった料理を皿に盛りながら、簡単に食べられる柔らかい料理を自分用に少量皿にのせる。
……後からトイレで“戻す”のに、一番楽だからだ。
エース達のノリがよく分からないが、グリムが「早く座って食べるんだゾ」としつこいので、渋々エース達の前に座る。
嘘。お腹は普通に空くし、今も少し空いてる。でもこれは危険な空腹だ。
飢えは喰種にとっての地獄。飢えて自我を忘れてしまったら、私は誰彼構わず襲いかかることになる。
しかも、魔法が使えるとはいえ、この世界には喰種を駆逐する喰種捜査官もいなければ、クインケもない。おまけに……私は天然の隻眼喰種。
どれぐらい被害が及ぶだろう。
出会って間もないのに随分と率直に言うもんだ。
敵対してる仲ならば、初対面で売り言葉に買い言葉で殺し合いへ発展……という流れはよくあるが、初対面の……関係もなかった人にいきなり病弱とは失礼では無いのだろうか。いや、むしろこれがこの世界の、この学校での彼等の日常かもしれない。とはいえ、随分と馴れ馴れしくないだろうか。悪気ないのが逆に調子が狂う。
これまた変わった先輩方だ。エース達がざっくり説明すると、チャラそうな男が「えー!同じクラスなの?いいなー」と残念そうな声を出す。
本当にどうしてこの学校の連中は気安く声を掛けてくるのだろう。良く言えば、人見知りしないフレンドリーまたは自信家な性格なのかもしれないが。
そのリーチ兄弟が誰だかは知らないが、ヴィルとか言う先輩に「良ければ見せてもらってもいいかしら?嫌なら構わないけど」と言われたので、仕方なく眼帯をとって見せる。
ここで断ったら変ないざこざが生まれるかもしれないので、今は何も言わずに大人しておいた方が良いだろう。
左目は“自分の目ではない”。
右目は自分の目だけど、赫眼すれば赤黒い目へと変わる。何も知らないからこそ、そんな事を言えるのだろうが、今の私の容姿は過酷な環境に耐え、変化した姿に過ぎない。
黒髪だって幼少期に白髪へと変わった。
この容姿が儚いというのなら、それは人間によって変化した“儚い残酷な容姿”だ。
本来の私の姿は目が水色なだけの、綺麗でも儚げでもないただの女だろう。
「まぁ、そう言うわけだから。放課後、3-C組で待ってるわ」と言い、私の返事も待たず、ほぼ強制的にデザイン参考の為のモデルをさせられる事になった。
先輩二人が去って行くと、デュースとエースが「俺達は部活あるから……ガンバ」と小さく言う。
別に一緒に来いとも言っていないが。
そんな事を考えながら、食べれもしない人間の食事を顔色を変えずに何とか口にして飲み込む。
勿論、食事が終わったあとはトイレに行き、戻すが。こうでもしないと、喰種の身体にとって異物である人間の食事を吸収し、体調不良になってしまうので面倒なのだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。