第13話

vol.11 救い
1,071
2022/07/12 06:18
数時間後─────────
月峯 奏
月峯 奏
(っ……気持ち悪い。今日で戻すの二回目だし、他に戻すもんないしでお腹がヤバい。グリムには先に寮に帰ってもらったが)
あの後、初来客限定と言うことで特別に料理を出されたが、私は食べられないので少しだけ食べるフリしてあとは初来客では無い、別料金で文句を言っていたグリムにあげた。
月峯 奏
月峯 奏
(あの海鮮料理とデザート、普通なら美味しく感じんのかな。好き嫌いは別として)
多目的トイレから出て、右手で口元、左手でお腹を抑えながら歩いていると「おい」と正面から声を掛けられ、顔を上げる。
レオナ・キングスカラー
レオナ・キングスカラー
女……?
ラギー・ブッチ
ラギー・ブッチ
あー、この子が噂になってる例の監督生っスよ
レオナ・キングスカラー
レオナ・キングスカラー
監督生?あぁ……一年の坊主共が騒いでた奴か
声を掛けておいて何の用なのだろうか。
不審がっていると、ガタイ良さげな男が「んで、その監督生がよろめきながら何やってんだ」と言ってくる。
月峯 奏
月峯 奏
……寮に帰る最中、デスガ
レオナ・キングスカラー
レオナ・キングスカラー
そうかよ。なら、誰かとぶつからないよう帰るんだな
月峯 奏
月峯 奏
はぁ……?
ラギー・ブッチ
ラギー・ブッチ
レオナさんは助けないんスね。えーっと、通訳すると、そこら辺に溜まってる生徒達がいるから、気を付けて帰れってこと。変に絡まれたらめんどくさいっスからね
月峯 奏
月峯 奏
……アンタ達、誰、デスカ
ラギー・ブッチ
ラギー・ブッチ
こっちがサバナクローの寮長、レオナ・キングスカラーさんで、俺はラギー・ブッチ。監督生くんは?
月峯 奏
月峯 奏
カナデだけど……何で、わざわざ声なんて掛けて……
ラギー・ブッチ
ラギー・ブッチ
単純に視界に入ったから気になったってのもあるんだろーけど、俺達のいた国に女性を敬う文化ってのがあって……
レオナ・キングスカラー
レオナ・キングスカラー
おい、うるせぇぞ。余計なこと言ってんじゃねぇ。群れてんのがうちの寮生だから後から問題起こされると面倒なだけだ
月峯 奏
月峯 奏
(なら、そっちを注意すればいいのでは?寮長なんだし)
ラギー・ブッチ
ラギー・ブッチ
なら、そっちを注意すればいいと思うんだけど、何せカナデくんと会う前っスから。めんどくさくて放置したんですよね?カナデくんと会った後なら一言、二言そいつらに何か言ってたかもしんないけど
レオナ・キングスカラー
レオナ・キングスカラー
ペラペラ喋ってんじゃねぇ。気まぐれだ。分かったならさっさといくぞ
去って行く二人の姿を見て呆然とするが、再び歩き始め少しすると、確かに集まって駄弁ってる不良の様な奴等が居た。ぶつかって絡まれたらさっきの二人の言う通り面倒くさそうなので、避けて歩く。
月峯 奏
月峯 奏
(やっぱ、よく分からん奴が多いな。それより……)
月峯 奏
月峯 奏
今夜から食糧探さないとな。クソ……。
個人差はあるが大体死体一体で一、二ヶ月持つとはいえ、オークション会場で元をとろうとしたのが仇になったな。結果的に食い損ねたし
だが、不思議なのは……この世界でも食糧はそこら辺にいて“探す必要はない”筈なのに、何故か殺す気になれない。
だからこそ、食糧になりそうな死体か何かを探す必要がある。
月峯 奏
月峯 奏
(何なんだ……?この世界に来る直前まで人を殺してたはずなのに……。いや……)
この世界に喰種は居ない。もしかしたら、今なら、“やり直せる”かもしれない。
人を殺さないでいれば、この世界では救いがあるかもしれない。
無意識に心の中でそう思っている自分が居る。
月峯 奏
月峯 奏
(“救い”なんてバカバカしい。そんなことしてどうする。誰が救ってくれる。人を殺した事実は消えないんだから、そんなもん意味無いってのに)

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