くしゃみが出る寸前に右腕を口元に当てる。
スティング君が「風邪か?」と首を傾げるが、ローグさんが「あなたが風邪?明日は毒霧が街を覆いそうだな」と呟く。
早朝、闇の鏡で賢者の島から無事出ることが出来たボク達は、デュースやエース達の家がある薔薇の王国にやって来た。現在、宿の一室に泊まって居る。
お金は学校で使わなかった分の余りで支払った。
スティング君が言うとレクターは「はい!」と元気よく返事をし、テーブルの上に地図を広げた。
何処にどの国があるのかを一通り確認した後、ボク達は街へと出掛ける。
念の為スティング君達に半分ずつお金を渡し、各自情報収集の為宿の前で散らばった。
街を歩いて最初に気付いた事と言えば、警察がちらほらと見回りしている。
常にこうなのかは分からないが、近頃多発している魔法士拉致事件の対策の一貫かもしれない。
本屋の前に置かれた新聞を手に取り、魔法士拉致事件についての記事が載っていないかを調べてみると、熱砂の国と夕焼けの草原で人身売買目的の拉致事件が起き、どちらの犯人も捕まっている。
しかし、輝石の国と薔薇の王国で起きた拉致事件の犯人は捕まっていない。
ナイトレイブンカレッジの真下には地下の部屋が作られ、魔力を吸収する為の大きなラクリマが設置されてあった。
街でもそうせず拉致を続けるのは、転送魔法陣の問題もあるのだろう。
新聞を元の位置に戻し、再び街を歩き出す。
黒マント集団の目的は一体何なのだろうか。
ろくな事じゃないのは薄々察するが。
黒マント集団はこの世界の警察にも追われている。何らかの拍子で魔導士がこの世界で問題を起こしていると知られれば、同じ魔導士であるボク達も疑われるかもしれない。
言葉で否定するだけなら幾らでも出来るが、今のボク達は自身が魔導士である証拠を見せるのが難しいのとは反対に、魔法が使えないからといって自分達が無害であると証明出来る訳でも無い。
魔法士だらけの世界で魔導士と名乗るのは、自分達の存在や位置を教えてるも同様。
むしろ、魔法が使えない今だからこそ敵や警察に目を付けられることもある。
どちらに捕まっても余計手詰まりになる。
だからボクは最後まで彼等に自身の正体を明かすこと無く去ったが、理由はもう一つある。
何となく路地裏を横目で見て歩いていたら、一瞬、黒い布を被った人が走って行くのが見えた。
まさかと思い、路地裏の方に走る。
“匂い”を追っていると、先程の人物の後ろ姿が見え、街から少し離れた木々の多い公園に出る。
何とか追いつき、顔を見てやろうとマントを掴むが、その人物は振り返る前にサァ……とマントだけ残し、消えてしまった。
───────そのすぐ後だった。
ドガァン!
ボクはすぐにその場から離れ、街中へと走って戻った。恐らく、爆音を耳にしたスティング君達もやって来るだろう。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。