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第3話

緑の街 2
43
2021/01/11 13:17
翔太はブランコに乗り、にっこりと笑っていた。

少女も駆け寄り、同じようにブランコに座る。
少女
少女
あの
翔太
翔太
なに?
屈託のない笑顔。
少女
少女
今、十時だけど、学校は?
翔太
翔太
行ってないよ。母さんが行くなって、言うから。
このときになって少女は気がついた。
少年の顔には無数のあざがある。

屈託のない笑顔には不釣り合いだ。

ガーゼも貼られている。何があってこうなるか。
少女
少女
どうしてそんなにあざがあるの
翔太
翔太
母さんが叩くから
少女
少女
そうなんだ
翔太
翔太
ギャクタイってやつだと思うんだ。だけど、母さんそんなに悪い人じゃないよ。ご飯美味しいし、綺麗だし
悪い人じゃなかったら、作るご飯は美味しくて、綺麗なんだろうか。

彼はそうじゃないというが、少女には到底そうは思えなかった。
少女
少女
お母さん、今いるの?
翔太
翔太
今はいるよ。夜の六時くらいになったらいないけどね。仕事に行っちゃうから
綺麗で、夜の仕事。きっと水商売だろう。

どこかのバーか何かで働いているに違いない。
少女
少女
お父さんは?
翔太
翔太
いないよ。母さんしかいない。僕がちっさい頃に、いなくなっちゃった
少女
少女
昔は、楽しかった?
翔太
翔太
母さんは叩かなかったけど、父さんが叩いた。母さんも僕も一緒に。母さん、僕を必死に守ってくれたよ
少女
少女
そっか
少年に哀愁や後悔は感じられなかった。

それが普通で、普遍的で、みんなそうであるかのような口ぶりだった。

しかしきっと、それが普通で普遍的でないことを知るだろう。


その時彼はどうするだろう。
翔太
翔太
僕ね、夢があるんだ
ブランコを漕ぐのも忘れて、彼はそう言った。
独り言にも聞こえた。
翔太
翔太
パイロットになりたいんだ。世界中を飛行機に乗って飛び回って、いろんな景色を見たい。綺麗な海、山、街_____。
素敵だよね、いいと思わない?
少女
少女
いいと思う。いい夢だね
思うより先にそう言った。

素敵な夢だろう。夢は、いつも素敵にできている。



少女は傾く夕日に、なんだか知らない神秘性を感じた。

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