翔太はブランコに乗り、にっこりと笑っていた。
少女も駆け寄り、同じようにブランコに座る。
屈託のない笑顔。
このときになって少女は気がついた。
少年の顔には無数のあざがある。
屈託のない笑顔には不釣り合いだ。
ガーゼも貼られている。何があってこうなるか。
悪い人じゃなかったら、作るご飯は美味しくて、綺麗なんだろうか。
彼はそうじゃないというが、少女には到底そうは思えなかった。
綺麗で、夜の仕事。きっと水商売だろう。
どこかのバーか何かで働いているに違いない。
少年に哀愁や後悔は感じられなかった。
それが普通で、普遍的で、みんなそうであるかのような口ぶりだった。
しかしきっと、それが普通で普遍的でないことを知るだろう。
その時彼はどうするだろう。
ブランコを漕ぐのも忘れて、彼はそう言った。
独り言にも聞こえた。
思うより先にそう言った。
素敵な夢だろう。夢は、いつも素敵にできている。
少女は傾く夕日に、なんだか知らない神秘性を感じた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。